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6 月 キス・穴場見つけたが・・・


久しぶりに、二時間もかけて富山湾へ釣りに来た。 氷見漁港の沖にある唐島で一度釣ってみたいと以前から思っていたが、何せ船がない。
そこで、いつでも組み立て持ち運べるゴムボートを購入した。
試運転も先日、能登の前浜のキス釣りで済ませていて、首尾は上々だ。

”唐島の魚は、全部俺のもの”と、ゴムボートの組み立ての手も、もどかしい。
ポンプを足で踏んでエアーを入れるのが、以外と面倒だ。
やっとボートも完成して、釣り道具も積み込み、サアー出発といったところで、
「なっ、なっ、ない〜。」
朝の四時起きで、富山くんだりまで来て、いったいどうすればいいんだ!。

ここ数日間、能登半島や富山湾の地図を眺めながら、ニヤニヤする事が多くなった。 手の届かなかったあの湾、この島と思い浮かべると、つい口元が緩んでくる、というのも訳 がある。
数日前に購入したゴムボートが原因なのだ。
家族のヒンシュクを買いながら、それにもめげず、家の中で空気を入れたり出したり。  あげくのはては、オールを取り付けて、漕ぐ練習までした。
これであそこのハチメ(メバル)は一人占めだと、とらぬ狸の何とやらでほくそ笑む。
試運転に選んだあそことは、金沢から能登海浜道を経て、一時間ほど北上した富来町の 前浜という小さな漁村だ。 ここは磯釣りによく来ており、土地感がある。
向かって左側に玄徳岬、湾をはさんで右側に北脇崎、それに続いて国定公園の関野鼻の ヤセの断崖といった風光明媚な場所だ。
その湾の出口の沖に根があり、ハチメの宝庫だという。
磯釣りの行き帰りに、断崖の上の道路から下の海を眺めながら、いつかはハチメの入 れ食いを味わってやるぞと夢みていたのだ。
それがこのゴムボートで実現できるとなると、つい口元もだらしなくなる。

その週末の朝には、前浜の漁港横の小さな砂浜から沖に向かって漕ぎ出していた。  仕掛けはメバルの胴つき三本バリ、エサはシラサエビを用意したが、なにせ入れ食いの 玄徳の瀬とばかりに青ムシにサビキまで持参したので、オールを漕ぐ手にも力が入ろう かというもんだ。

天気は良し、風は少々あるが気にもせずで、天下泰平。

ところがどっこい能登の荒海。 湾の出口を過ぎた頃より、漕いでも、漕いでも目的地に 到着せず、風下へ流されるばかりだ。
命からがら湾の中へ戻ってきて、はたと思案したがどうにもならい。 しかたなく玄徳岬 の際の根の上にアンカーを下ろして、釣ってみることにした。
沖で釣れるものは、ここでも釣れるだろうという、いい加減な発想だ。
エサを新鮮なものにとっ替えひっ替えしてみたものの、一時間で釣れたものは、放流 サイズのカサゴ一尾のみ。

そうしていると、漁師の伝馬船が一隻近づいてきた。
「アンちゃん、何しとんがぁ?」
いい親父をつかまえてアンちゃん、釣り竿を見て何しとんがぁ?とは失敬千万な!。
当然無視だ。
「そこにゃウオ(魚)はおらんわいや、おったらワシが網刺しとるわいや。」
親切なのか意地悪なのかわからない漁師が行ってしまうと、もう我慢がきかない。
オロオロと何度も場所移動をするが、ベラが一匹釣れたのみで、ふてくされてしまった。

ボートの漕ぎ疲れでイヤになり、湾の真中の砂地でアンカーを下ろした。
この時にリールのクラッチにひっかかり、仕掛けも下りていったが気にもとめない。
まつっては面倒なのでクラッチをもとに戻し、ゴムボートのへりに足と頭を乗せて空を見な がら、帰りの道筋の魚屋を思い浮かべる。
”今晩のオカズはハチメのフルコースと大見得をきって出てきて、まさかアジのミリン干し という訳にもいかんだろうなぁ−。”と愚にもつかない事を考えている。

ふと見ると、竿先がガンガンたたかれているではないか。あわてて大アワセをくれ、必死 にリールを巻くが、なかなか巻き取れない。 ウルトラライトのルアー竿が、ときたま海中に 突っ込む。
やっとのことで巻き上げると、パールピンクも眩しい大ギスではないか。メジャーで計ると実 寸31Cmの記録ものだ。

あわてて仕掛け箱の中を捜すと、投げ釣り用のキス仕掛けがあった。何でもかまいやし ない。 小さめの青ムシを二つに切って付け、投げ込むと同時にまたもやブルン、グググッー。
ひと呼吸おいて巻き上げるが、今度の方がはるかに重い。取り込んで見れば、先程のやつ より一回り小さいが、28〜29Cmのダブルだ。
いつもなら狂喜する寸法なのだが、30Cmオーバーを見た後では落胆してしまったのは欲 ボケだ。。 根があっちこっちに点在しているので、根掛かりも多かったが、夕方までに14匹の釣果を 上げた。

陸へ上がり、ゴムボートをトランクに仕舞い、オールのつなぎ目の水を抜いて乾かすた め護岸に立てかけると、一息つきながらクーラーの中を覗く。
すんなり収まらずに、折れ曲がった大ギスを見て、一人でニヤリ。
「なんか釣れたかいや−。」
突然、うしろから声をかけられた。さっきの漁師だ。
反射的にクーラーのフタを閉じ、トランクに入れてしまった。
”魚はどこでも釣れるんじゃ、フン。”といいたいのを我慢して、
「アンタの言うとおり、ダメだったですわ−。」
と、釣り師特有の了見の狭い嘘をつき、うしろめたい気持ちで、そそくさと車に乗り込んだ。
車の中ではキスの刺身やテンプラ、塩焼きを思い描き、一人でスケベ笑いをしながら、 ただひたすら自宅へ向かって走り続けた。

まさかオールを護岸に立てかけたのを忘れたままで、後日、富山湾の氷見まで行 く事になろうとも知らずに!。
 

−鮎三昧−
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