「ナギ祭のフィナーレを飾る花火に、会場は熱く盛り上がりました。 
そして今、楽団の演奏する、 海のララバイ を聞きながら、お祭りの幕が下りてい
きます。
ありがとう皆さん、またお会いしましょう。 
スピラの平和と幸せを祈りつつ、ナギ平原からお別れします。
レポーターはシェリンダでした。 皆様、おやすみなさい」

通信スフィアのスクリーンでは、花火が上がっていた時の映像をバックにスタッフロ
ールが流れていた。

 映像はモーグリとケットシー、そしてトンベリを囲んだ子どもたちが、花火に狂喜し
ているところを、うまくとらえたものだった。
ロンゾの少女とグアドの少女が笑顔をかわした瞬間を静止させ、エンドマークを隅
にのせて、放送は終了した。 

 この画は、永くルカ局の語りぐさになる。



 
「ユウナたち、だよ、な?」
ワッカが丸くなった目で隣のルールーを見る。
イナミを抱いたルールーは、もうすでに我慢できずに笑い転げていた。 
イナミもきゃっきゃと手足をばたつかせている。

スフィアスクリーンに大きく映ったあのモーグリたちは、まちがいなくユ・リ・パの三
人娘だ。

 前日のコンサートはあんなに素晴らしかったのに、なんでまた着ぐるみなんか着
て…
「なんて格好してるんだ、 …あのユウナが、モーグリ…」
頭を抱え込んだワッカだったが、次の瞬間、爆笑してしまった。 
ルールーと二人、おさまらない笑いに話もできない。

 やっと息をつけるようになると、ワッカはルールーの肩をきゅっと抱いた。
「ハハ… やっぱ、行って、見たかったな」
目をぐいっとこする。
「ユウナ、…元気いっぱいだった」

「そうね、よかったわね」
ルールーはワッカの赤毛の頭に、自分の形のいい頭を、こつん、とあてた。



「長老、どうかしたのですか?」
いつもキマリのそばにいる娘は、スフィアスクリーンの前で肩を震わせているキマリ
を心配して聞いた。

「ああ、なんでもないのだ。 ナギ祭の様子が楽しそうなので」
キマリは振り返って答えた。 
肩の震えは、声も無く笑っていたせいだった。
ロンゾの娘は自分もにっこりした。

 スクリーンに目をやると、モーグリの着ぐるみが、なにやらおどけた仕草をしている。

「アラ見て! ガガゼドの子どもたちよ!」
「あれは息子だ。 ほら」
「おお、本当だ」
と画面を指差して騒ぐ。

 スクリーンに、微笑む二人の少女が浮かんだ。

 画面が暗くなっても、席を立つものはいない。

 ガリクは後ろのほうに一人でいた。
だから、青い花を胸に飾った少女がスクリーンの中で笑った時、彼も白い歯を見せ
たことは、誰も知らない。




 セルシウスの窓の向こうは、夜のナギ平原。
「静かになっちゃったね」
リュックが映りこんでいる。

 ユウナとパインはブリッジの階段に座っていた。
「シンラ、淋しそうだったな」
「ちょっと、ね」

「だーいじょーぶだって! いつでもどこでも、会いたいヤツがいるんなら、コイツで
ひとっ飛びだって」
疲れ知らずのアニキが、両腕を翼のように羽ばたかせて言った。

「そうだな。 会いたきゃ、ひとっ飛びだ」
パインがユウナを見る。
「うん」

「ああっ、あれ、トタギの船だ」
外を眺めていたリュックが言った。

「なにいー、オヤジの船ー? おお、ほんとだ」
シドの飛空挺を先頭に、三機の船が飛び立って行く。
「ツアーの客を乗せて帰るんだな」
飛空挺の灯が瞬きながら小さくなる。

「もう寝ようぜ、朝になったら出発だ」
ダチはアニキの肩を叩いて、ブリッジを出て行った。
「おう。 ユウナんも、寝たほうがいいのだ」
アニキはドアの所で、振り返ってユウナに声をかけた。

「うん。 あ、あの、アニキさん」
「なんなのだ?」
アニキは青く隈取りした目を、ぱかっと開いた。
 
「ありがとう。 お祭り、とっても楽しかった」 
「なは、あは、そんなことか。 うん、良かった。 明日からまたガンバルのだ。 
うん。 いや、いや、なはは」
なんだかわけの分からない言葉をまきちらして、アニキはクルクル回転しながらブ
リッジを出て行く。

「いい夢見るよ、アレは」
リュックは緑の目をくるりと上に向けた。

「わたしたちも、休んだほうがいい」
パインは自分が立ってから、ユウナに手を貸して立たせた。

 ふと見やった窓に三人の姿が映っていた。
ガラスの中で三人は、小さくガッツポーズを交わした。




 朝の最初の光がナギ平原に射した。 
それが合図のように、セルシウスは地上を離れた。

 早起きした子どもたちが、手を振る。 
デッキでは、ユウナたちも、手を振り返していた。
 
ぐん、と機体が高度を上げる。 
大地が遠のく。 
たくさんのテントは、緑のじゅうたんに並べたおもちゃみたいだ。
草原の果ては、かすんで、空と溶け合っている。

「きれいだね」
朝の風に三人の髪がなびく。

「これが最後のミッションだ」
パインの声にきびしさがもどっている。

「ユウナん、頑張るのはあと少しだよ」
頬にえくぼを浮かべて、リュックが言った。

「うん。 いよいよだね」
強い光がユウナの目にきらめく。

 握り合った三人の手で作られた小さな丸い星。 
これはスピラ。 
大切な世界。


 指笛が聞こえた。

 ユウナがはっと、パインとリュックを見る。

「あたしにも聞こえた」
リュックが言った。
「ああ。 わたしも聞いた」
パインはユウナの胸で揺れている、青いスフィアに目をやった。

「呼んでるんだよ、きっと」
リュックの顔が泣きそうになる。
「会えるよ、絶対」

「うん…」

 ユウナは飛空挺のへさきに立つと、指笛を吹いた。
キレイな音が、澄んだ空気をふるわせていった。


おわり

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