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1.介護老人福祉施設 (特別養護老人ホーム)

 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム、特養)は、要介護者(1〜5)で、在宅介護が困難な65歳以上の人が利用できる施設です。施設数は全国で約6,000と、介護施設において最多です。
 介護保険法では「介護老人福祉施設」と呼ばれ、老人福祉法では「特別養護老人ホーム(特養)」と呼ばれていますが、実質的には同一です。「公的ホーム」とも俗称されています。
 施設の設置・運営は、地方自治体(都道府県・市町村)と社会福祉法人に限定されています。
 「施設サービス費」は介護保険の適用により、1割負担となります。
特養は他の介護保険施設に比べ低額ですが、トータルの費用は施設により多少異なります。
「居住費」や「食費」については、厚生労働大臣によって定められた「基準費用額」が目安となるものの、月額の総費用は要介護度と利用日数、そしてさまざまなサービスの利用に応じて、施設との契約によって決められるためです。
 ちなみに低所得者には、「居住費」「食費」の「負担限度額の減額申請」を行うことができるという軽減制度が用意されています(ただし、自ら申請することが必要)。
介護保険の給付の対象からはずれる「居住費」「食費」「日常生活費」のいわゆる「ホテルコスト」が、自己負担となります。
 また個室の場合、個室利用料は介護保険の対象外であり、同様に自己負担となります。
そのため、あえて既存の相部屋タイプを希望する人も少なくないようです。
とりわけ洗濯代や理美容代などの「日常生活費」が、要介護の度合いに応じて想定以上にかさみ、最終的に結構な金額になる場合も多いので、注意する必要があります。
申込みは希望者が自由に行えることになっていますが、入居希望者・待機者が非常に多く、数年待ちというケースも珍しくありません(現在、特養の入所者数が約40万人であるのに対し、入所希望の待機者もほぼ同数の40万人ほどいると言われています。)。
 入所にあたっては、現在は申込順ではなく介護の「優先度順」となっており、、要介護度、介護者の状況、その他緊急性の判断などにより地方自治体・施設が定めた入所基準に基づいて、待機者名簿が作成されています(したがって、入所基準は地域や施設によっても異なることになります)。
その名簿をもとに、施設長・介護職員・ケアマネジャーらから構成される「入居判定委員会」での合議により、入所の優先順位が決められることになります。
 「福祉型」の施設であることから、可能な限り在宅生活への復帰を念頭に置いて、施設サービス計画に基づいた入浴・食事等の日常生活の世話、機能訓練、健康管理などを行います。
 在宅での日常生活が可能になったら、本人や家族の希望等をふまえて、スムーズな退所のための支援を行うことになっています。
 しかしながら現実には、介護保険三施設のなかで介護機能に最も重点をおいた施設ではあるものの、入所期間も特に決められておらず、入所者も、80歳以上の高齢者の方が過半を占めていることもあって、退院できないままに看取られる入所者も、相当数に達しています。
低価格で入れる介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)は、建設にあたって地方自治体に多額の補助金が支給される反面、建設に行政の指導が入ることから、どうしても全国的に一律の画一的な建物の造り・個性のないサービス内容になっています。
 個室もあるものの、全体の7割は「4人程度の相部屋」となっており、低額で入所できるというメリットがある反面、プライバシーが無く、生活の質が低いまま放置されている点が指摘されています。

現在は、10人をひとまとまりに介護する「ユニット型」といわれる個室タイプ(従来の特養に対し「新型特養」と呼ばれています)でなければ、あらたに特養を設置できなくなっていますが、現状ではまだ「ユニット型」の普及率は、全国ベースで全体の四分の一程度にとどまっています。
 また、建設費用の四分の三をまかなっていた国の補助金が2005年に廃止され、特養の新設そのものにブレーキがかかっているということもあり、今後のユニット型への移行や個室部屋の増加は難しい状況にあると云われています。



2.介護老人保健施設 (老健)

 介護老人保健施設は「老健(ろうけん)」とも言われ、介護を必要としている高齢者の自立を助け、家庭で生活していけるよう、支援する施設です。
全国に約3,500施設あり、現状ではほとんどが医療法人の運営となっています。
 要介護度1〜5の認定を受けた65歳以上の高齢者で、病状がほぼ安定し入院治療の必要はないものの、リハビリテーションを必要とする人が入所できます。
これを逆からみると、リハビリテーションの対象外の人は入所できませんし、また現状のリハビリを継続できない場合には退所せざるを得ないということになります。
本人の自宅復帰などの目標に向かい、医師による医学的管理を基準にした看護・介護、リハビリテーション・栄養管理・食事・入浴等の日常サービスを併せて提供し、夜間でも安心できる施設となっています。
 ただし、医師や看護師がいる施設なので医療面ではよいものの、施設に入所中は、原則として他の病院にかかることはできません(急病の場合は、連携する病院などで治療を受けることになります)。
 病院での治療を終了後、多少の障害が残り、いきなり家に帰って生活するには、本人も家族も不安が残る場合があります。
 そのような場合、一定期間を目安に(3〜6ヶ月程度)入所して、施設に常勤している理学療法士や作業療法士らによる自立機能向上を目的としたリハビリや、介護方法や介護用品の使い方の指導などが行われます。
 一定期間ごとに在宅復帰が可能かどうかの入退所判定が行われ、可能なら帰宅ということになります。
 介護老人保健施設は、このように病院から在宅へのかけ橋となるという意味で、「中間施設」とも呼ばれ、介護保険三施設の中でも中間的な位置づけとなっています。
 ところで、厚生労働省は、介護保険三施設のひとつである「介護療養型医療施設(介護療養病床)」において、医療や看護をほとんど必要としない入所者が約半数を占め、給付費の無駄が指摘されていること、医療保険が適用される「医療保険型療養病床(医療療養病床)」と機能が似ていることなどの理由により、これを、2011年度末(2012年3月末)で廃止する方針を、すでに明らかにしています。
(「介護療養型医療施設(介護療養病床)」の詳細については、3.介護療養型医療施設をご参照ください。)
 全国に10万床ある「介護療養型医療施設(介護療養病床)」を全廃し、あわせて「医療保険型療養病床(医療療養病床)」25万床のうち10万床程度を削減して、コストが比較的低い他の介護施設や自宅などに移行していくことを想定しています。

【追記】 
 なお、2008年7月26日の報道によると、厚生労働省は2006年度に立てた削減目標を緩和し、2012年度末(2013年3月末)までの療養病床の目標数を、従来目標より多い「22万床」とする方針を決定しました。
「医療・介護難民」が増加する」との社会的批判の高まりを受け、方針転換したとのことです。
そのため、厚生労働省は現在、医療・看護の体制を強化した施設への移行をもくろむ「転換老健」の
基本方針を提示しながら、専門家や地方自治体と議論を深めています。
厚生労働省はこの方針にもとづき、2008年5月に、患者の受け入れ先の中核的存在として想定する「介護療養型老人保健施設(新型老健)」の制度を、新たにスタートさせました(これと対比して、これまでの老人保健施設は、「従来型老健」と通称されています)。
 なお、「介護療養型老人保健施設(新型老健)」の詳細については、介護療養型老人保健施設(新型老健)、その内容と問題点。をご参照ください。


3.介護療養型医療施設

 「介護療養型医療施設」は、介護と医療の両方を必要とする高齢者が長期療養のために入所する、
介護保険が適用される施設です。
病院・医院等の一角に設けられていることが多く、一見すると病院そのものに見えます。
現在は、全国に3,000施設弱あります。
 医学的管理と看護のもとで、入所者が自宅等へ復帰できるよう、介護はもちろん日常生活の世話やリハビリなどを行ない、できる限り自立した生活を営んでいけるように、配慮されています。
 具体的には、病状が安定期にあり、医学的管理のもとで、長期間にわたる療養や介護が必要な要介護1以上の人が入所できます。
 かつて、65歳以上の高齢者が一定割合入院する病院は「老人病院」と呼ばれていましたが、介護保険成立後、この老人病院は「療養型病床群(現在の「療養病床」)」に含めて分類されることになりました。
 この「療養病床」は、「医療保険が適用される病床」と「介護保険が適用される病床」に、分けられています。前者が「医療保険型療養病床(医療療養病床)」、後者が「介護療養型医療施設(介護療養病床)」となります。
 「療養病床」は医療施設で、機能訓練室や談話室、食堂、浴室などの設備を備えつけなければならないことになっており、また面積も一般病棟よりも広く設けるよう義務づけられています。
(なお、療養病床はほとんどが相部屋となっており、一見したところごく普通の一般病院の入院施設、といった風です。)
 施設の利用料は、要介護度や職員の配置人数などによっても異なりますが、医療の必要性が高いこともあり、特養や老健に比べると利用料がもっとも高く設定されています。
 現在、「療養病床」は全国に38万床あり、内訳としては「介護療養型医療施設(介護療養病床)」が13万床、「医療保険型療養病床(医療療養病床)」が25万床となっています。
機能の似た両病床が並存する理由として、医療側が療養病床をすべて介護療養型に移行することに反対したため、両方にまたがる形として残った、という説があるようです。
 現在にいたるまで、介護報酬が低いなどの理由から医療側が積極的に動いてこなかったため、「介護療養型医療施設(介護療養病床)」の増加はその後スローペースで推移した後、今日では以下の理由により、急速な減少傾向にあります。
 兼ねてから、現実には医療や看護をほとんど必要としない入所者が約半数を占めているとして、給付費の無駄が指摘されたこと、そして「介護療養型医療施設(介護療養病床)」が「医療保険型療養病床(医療療養病床)」と機能が似ていることなどが指摘されていました。
(ちなみに、「介護療養型医療施設」と「医療保険型療養病床」のどちらに患者が入院するかは、病院側の判断によりおこなわれています。)
 医療の提供がほとんど必要ない人や、看護師の定時観察だけですむ人の割合が、「療養病床」・「老人性痴呆疾患療養病棟」ともに、それぞれ5割前後になるという利用者の実態調査結果もあったそうです。
このような患者の入院形態は「社会的入院」と呼ばれていますが、医療費の高騰につながる主犯として、厚生労働省はこれまで、この「社会的入院」の解消を三十年来の悲願としてきました。
 そのため、厚生労働省により、「介護療養型医療施設(介護療養病床)」については、2011年度末(2012年3月末)ですべて廃止される方針が、示されています(廃止される既存の施設は、2008年5月に新たに発足した「介護療養型老人保健施設(新型老健)」を中核に、他の介護施設への転換がうながされる予定です)。
 厚生労働省が上記の方針を打ち出した後、「介護療養型医療施設(介護療養病床)」を出た高齢者が「介護老人保健施設(老健)」に移る場合、これまでのリハビリ施設としての「老健」の医療・看護体制が比較的弱かったことから、医療関係者を中心に「老健では患者の受け入れが難しく、行き場のない介護難民が大量発生する」などの批判が、これまであいついで出されていました。