「一ツ灸」とは


高源院の「一ツ灸」は今から約300年前、1704年(宝永(ほうえい)元年)までさかのぼります。

富山県氷見市(ひみし)鞍川(くらかわ)にある曹洞宗・東泉寺御開山(とうせんじごかいさん)(初代住職)である一如孝順(いちにょこうじゅん)大和尚は30歳のとき、中風(ちゅうぶう)(半身不随になる病魔)を患い、大変、苦しんでおられました。一如様は普段から薬師如来様を篤く信仰していた僧侶でした。それ故、一如様は連日、薬師様に病気平癒を祈願し続けました。

そんなある夜、一如様の夢枕に弘法大師(真言宗開祖・空海)様が現れました。弘法大師様は一如様に告げられました。「あなたは青麻三光尊(あおそさんこうそん)」に祈願すれば、今の病が全治する」というのです。


「青麻三光尊」とは、薬草で人々の病気を治したとされる中国古代の伝説の仏様です。「青麻」とはイラクサ科の多年生草木の苧麻(ちょま)が2〜3mに達したものを刈り取り、皮を剥いで水によく晒し、(むしろ)で覆って蒸してから細かく裂いたもので、奈良晒(ならさらし)越後縮(えちごちぢみ)の原料となる“からむし”のことです。「三光」とは「(ふっ)き」、「神農(しんのう)」、「黄帝(こうてい)」という説がありますが、詳細は不明です。

「青麻」は東北地方(会津、米澤、最上など)で生産され、「青麻三光尊」は、そんな青麻を栽培する農家が上作祈願のために祭祀されたようです。東北地方には6箇所の「青麻神社」が存在し、青麻信仰が分布していることがわかります。また、「青麻三光尊」は地方によっては「中風除(ちゅうぶうよ)け」の神としても信仰されたようです。


青麻三光尊

【参考】  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%82%B7

(むし http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AD%B5

当時、山形県の酒田港と富山県の伏木(ふしき)港を結ぶ日常的な海上交通の便が開かれていたようで、富山の一如様が何らかの形で東北の「青麻信仰」を知った可能性は十分に考えられます。一如様は弘法大師様の夢のお告げに随い、恐らくは東北は最上に足を運ばれたのでしょう、「青麻三光尊」に祈願を続けました。

すると、ある夜の夢枕に今度は「青麻三光尊」が現れ、「男は左足、女は右足、それぞれ三年続けて灸を勤めれば、どんな難病も救われるだろう。」と告げられました。目が覚めると、一如様の病は見事に回復していました。

一如様はご自分の病を見事に回復させた灸術をしっかりと学び、富山の東泉寺に戻ると、お灸を通じて人々の無病息災を願い、お釈迦様のごとく「衆生済度(しゅじょうさいど)(人助け)」の生涯を過ごされました。それが「一ツ灸」の起源となるお話です。

明治に入り、そんな「一ツ灸」が東泉寺17代住職・菊池徹参(きくちてっさん)師によって、金沢の高源院に一如様遺意不嘱の一ツ灸伽持秘伝の術とともに伝わりました。一如様の願いを代々受け継ぎ、菊池徹参住職からいただいた仏縁を今も尚、大切にしながら、毎年7月1日、「一ツ灸」は続けられております。