第10回 「八風(はっぷう)吹けども動ぜず」


「逆風・突風に惑わされずに生きていく」



物事が自分の思い通りに進むことを「順風満帆」と申します。順風とは追い風を意味しています。

それに対して、八風
(はっぷう)
とは、人の行く手を妨害する風、“逆風”のことです。

我々は順風が吹くと、大いに喜び、舞い上がります。しかし、逆風が吹くと、たちまち悩みだし、苦しみの渦の中に巻き込まれていきます。我々の人生、その行く手には、そうした順風、逆風、様々な風が吹いています。これまで順風が吹いていたのに、何らかの原因で逆風が吹き出すことは誰しも経験があることです。そうした人生の風向きが我々に様々な影響を与えます。


「八風吹けども動ぜず」という禅語を味わっていく上で、まず、押さえておきたいのは、人生において風向きが変化する原因は、周囲の人間や社会など、他者が作り出しているのではないということです。自分の言動によって、風向きが変化することを、しっかりと踏まえておきたいものです。すなわち、我々が笑うも泣くも、自分の行い次第であり、他者に責任を押し付けるのは間違いであるということです。そのことを十分に自らに念じ込んでおきたいものです。

さて、この禅語の意味ですが、「どんなことが起こっても動じることなく、謙虚な姿勢で自分の行いを見つめ直す姿勢を崩さなければ、悟りへの道が開けてくるのだよ」ということです。我が身に吹く風が、たとえ荒れ狂った逆風であっても、謙虚な気持ちで逆風と向き合い、苦しみ抜く中で、追い風が吹くときがやって来るかもしれません。ただ辛い辛いと嘆き悲しんで、マイナス思考で日々を過ごしているのならば、辛いだけです。追い風が吹くことはありません。

謙虚に自己と向き合う中で生み出されていく前向きな思考や生き方は「確固たる自分」を生み出します。それは何ごとにも動じない大山のごとき自分です。自分の言動一つで、逆風は順風となり、順風が逆風に変わるのです。そのことを忘れずに、自らの言動には謙虚に過ごしていきたいものです。

最後に第32代内閣総理大臣・広田弘毅(ひろたこうき)(1878年〜1948年)の川柳をご紹介させていただきます。

「風車、風の吹くまで昼寝かな」

逆風のときこそ、ゆっくりと自己を見つめなおしながら、自己を磨き、順風が吹く準備期間として過ごしていきたいものです。