第12回  「天真(てんしん)に任す」


自然の流れに身を任せて生きていく



「天真」とは人為造作を加えぬ自然の状態、本来の姿を意味しています。私たち凡夫は、自分だけがいい思いをしたいと考えるがあまり、自分に都合のよい身勝手なものの見方や考え方をしてしましがちです。そうやって事実や本来の姿をありのままに受けとめようとしないがために、周囲と誤った関わり方をしては、悩んだり苦しんだりしてしまうのです。

こうした誤りを正していくには、自分だけをかわいがろうとする自己への執着をやめて、自然の道理に身を任せて毎日を過ごしてみる。あるいは、この世の真実を悟った仏様に我が身を委ねてみる。「天真に任す」は、そうした周囲に我が身を委ねた生き方を我々に説くのです。

仏教徒の根本姿勢として説かれるのが、仏法僧の三宝への帰依です。私たち凡夫に正しいいのちの生かし方を説く仏様に我が身を委ねる姿、法という、仏の教えを受け止めて毎日を過ごすという姿、周囲のいのちを敬い、仲良く関わっていくことを心がける姿、こうした三宝帰依の生き方の根底にあるのは、「天真に任す」というみ教えなのです。

平成23年に発生した東日本大震災を機に、度重なる想定外の自然災害を通じて、私たちは人間一人の力は大自然の大きな力みれば、ほんの一握りの小さなものであることを思い知らされてきました。ひょっとしたら、私たちは自分たちに都合がいいように周囲を作り替えていくことばかりに主眼を置いて過ごしてきたのかもしれません。

計らずも、今日は令和天皇が即位を宣言し、皆でお祝いする「即位礼正殿の儀」の一日となりました。新しい時代を迎えた今、過去をしっかりと踏まえ、明るい未来を切り拓いていきたいものです。そういう意味でも「天真に任す」が説くことを押さえながら、周囲のいのちを敬い、一人一人の存在を大切にしながら、毎日を過ごしていきたいものです。