第31回  「一行三昧(いちぎょうざんまい)  


あれこれやらずに一つのことに集中し、今を一生懸命生きる


20代の頃はお笑い芸人の道を歩み、不動の人気を得る。
30代では、役者の世界に入り、数々の当たり役に恵まれる。
その中で、棟方志功を演じたことがきっかけとなり、水墨画を描き、数々の芸術作品を生み出していく。
50代半ばに始めた書道でも大きな話題を呼び、道を大成。
60代になって関心を持った瞑想がヨガへとつながり、インストラクター検定の中でも難関のレベル1に合格―

これは俳優に芸人に芸術家と実に多くの肩書を有する片岡鶴太郎さんの人生です。私が子どもの頃にはお笑いの世界から役者の世界に活躍の場を移されていた時期で、芸達者で深みのある演技がとても魅力的な、子どもにも安心感を与える役者さんのお一人でした。

そんな鶴太郎さんを久しぶりにテレビでお見かけしたのが、TBS系列で毎週金曜日19時から放映されている「爆報theフライデー」という番組でした。2019年8月23日放送分では、故・夏目雅子氏の銘に当たる女優・楯真由子(だてまゆこ)さんの近況が取り上げられていました。子役時代から高い演技力を評価され、将来を期待されていた楯さんでしたが、“名女優・夏目雅子の銘”という重圧から精神的ダメージを受け、芸能界から遠ざかってしまったとのことでした。それでもシングルマザーとして、我が子を育てるべく、キャバクラで必死に働く楯さんには、本当は芸能界に戻り、歌をやりたいという思いがありました。

そんな楯さんにとって、時代劇での共演以来、俳優の師であると同時に、楯さんの継母である故・田中好子さんに絵画を教えた師ある存在が鶴太郎さんです。鶴太郎さんは数十年ぶりに再会した楯さんの近況と本音にじっくり耳を傾けながら、一言、「自分がやりたいと選んだ道ならば、しっかりと究めなくてはならない」というアドバイスを発せられました。
芸人、俳優、芸術、ヨガetc。これまで様々な道を歩み、その道を究めてきた鶴太郎さんの言葉は深みのある重いものでした。そんな鶴太郎さんがご自身の人生を振り返りながら発せられる一言一言が、若き楯さんの心に響き、楯さんの頬に涙が伝っていました。

今回提示させていただいた「一行三昧」という禅語は、まさに片岡鶴太郎さんのように、三昧(ざんまい)(一つの道をしっかりと歩むこと)によって、、一つの行が大成されていくことを意味する言葉です。一つの道を歩みながら、別の道を歩もうとも思えば、歩めるかもしれません。しかし、双方の道を大成することは不可能です。道に対して十分な理解もできず、中途半端になるだけでしょう。

鶴太郎さんのように道を究め、体得していくには、その道だけを注視し、歩むことが大切なのです。そうやって体得していった道が自分の人生の肥やしとなっていくのです。どんな道でも構いません。何か一つを選び、その大成という大目標に向かって、コツコツと精進していくことが、人間の人生を豊かにしていくことを俳優はじめ数々の肩書を持つ片岡鶴太郎さんから学ばせていただきたいものです。