第29回  「一期一会」(いちごいちえ)

「一回一回のご縁を大切にする」


今回提示させていただいた「一期一会」は、世間ではよく知られている禅語の一つではないかと思います。「一期」とは、人間が生まれてから亡くなるまでの一生涯のことを指します。その一生涯において、その人と出会うのは「一回」だけであるというのが、「一期一会」の意味するところです。

しかしながら、実際には1回だけのご縁だった方もいらっしゃれば、2回、3回と続けて幾度もお逢いできる方もいらっしゃいます。もちろん、一生涯のお付き合いの方もいらっしゃいます。それが縁というものなのでしょう。

また、別の側面から見ていくと、私たちは「諸行無常」の中で生かされています。誰一人として明日を生きる保証のない、まさに露のごときいのちを生かされています。そして、いつ、別れが訪れるかわかりません。次に逢えることさえ保証されていないのです。

だからこそ、相手とのご縁をいただいた瞬間が「最初で最後かもしれない」と意識して、相手との関わりを大切にしていく必要性が出てくるのです。それが「一期一会」という禅語が我々に訴えかけていることです。

令和の時代に入り、これまで、ご縁のあった方々との別れが相次ぎました。買い物に行けば、いつも穏やかに応対してくださったお寺の近くにある商店の奥さん、私の子どもたちをご自分の孫のようにかわいがってくださったお寺の奥さん、他県に出かけた際のお土産をお渡しに行ったとき、とても喜んでくださった知人のお父上。そうした方々が鬼籍に入られるたびに、生前の出来事が思い出されると同時に、最期にお会いした時のことを思い返すと、もっとじっくりお話させていただければよかったと後悔の念が沸き起こってきます。

人とのご縁はいつ、何が起こり、どうなるかわからないものです。だからこそ、一回一回のご縁が最期のご縁(たった一回のご縁)になるかもしれないと思って、お互いにいい余韻が遺せるような言葉や行いを発しながら、相手との関わりを大切にしていきたいものです。