第16回 「労働と布施行 ―“働き方改革”の中で意識しておきたいこと

治生産業固(ちしょうさんぎょうもと)より布施に(あら)ざることなし


「役人は人の役に立ってこそ役人である」

これは日蓮宗の僧侶で、石川県羽咋市の神子原町(みこはらまち)の神子原米をローマ法王に献上したことで、限界集落だった町を蘇らせた“スーパー公務員こと、高野誠鮮(たかのじょうせん)氏のお言葉です。私はこれを役人のあるべき姿勢を端的に言い表した名言であると思っています。「人様に喜んでいただけるような仕事をする」というのは、役人に限らず、接客業であれ、作業員であれ、給料をいただいて、生活の糧としている者ならば、是非、心の中に念じておきたいところです。

今回の一句は、こうした労働の基本的姿勢とは、人様に喜びをお届けすることであるということを言い表しています。給料をいただいて働く者の基本姿勢というのは、「喜びの提供」という布施行でありましょう。

相手に喜びを届けるということ」は、決して、簡単なことではありませんが、「人と接するとき、果たして、相手に喜んでいただけるようなものが提供できているかどうか」という視点を、特に仕事を持つ方ならば、一度、ご自分に問いかけていただきたいところです。

“働き方改革が叫ばれる今日この頃、過剰なまでの時間外労働の短縮等、これまでの労働方法において、見直すべき部分があるのは事実でしょう。しかし、そういう中において、高野氏が説く「役人は人の役に立ってこそ役人」というような、相手に喜んでいただけるような仕事をするという姿勢は忘れずに意識していきたいものです。

仕事をしていると、忙しいときもあれば、大変な作業に出くわすこともあります。しかし、そうした労苦を乗り越えてみると、お客さんの笑顔や相手の喜びが必ずや自分の喜びとなり、働く意欲を掻き立てていく場面が訪れるのです。


相手に喜びを届けることを目標に、自分も一生懸命働いて、生きる喜びを噛みしめていく―“働き方改革が叫ばれる中で、みんなが喜び、幸せになれるような労働を提供していくことを再認識しておきたいものです。