第24回「利行 ―平等で差別なき人間関係を目指して―」
利行というは、貴賤の衆生に於きて、利益の善巧を廻らすなり
今回より「四枚の般若」の三つ目となる「利行」について、読み味わってまいりたいと思います。道元禅師様は「利行」においても、「布施」や「愛語」同様、まずは内容が示されます。そして、その後もこれまで同様、たとえを用いながら具体的に説き明かしていくという論法が用いられていきます。
「利行」とは「貴賎の衆生に於きて、利益の善巧を廻らすなり」とあります。「相手の立場・性別・身分・家柄、そうした相手の見た目や個人情報に関係なく、仏が人々に恵みを施すが如く、平等に救いの手を差し伸べることである」と道元禅師様はお示しです。
「利行」の“利”という文字は“ききめ”や“効用”を意味します。「利益の善巧」とあります。「利益」は一般社会では「りえき」と読み、”もうけ”を意味しますが、仏教の世界では「りやく」と読み、“仏の恵み”を意味します。「ご利益がある」といった言い方をしますが、仏様というのは、自分の周囲にいる人々を幸せにすることを自らの喜びとします。ですから、相手の立場や家柄などは一切関係なく、皆が幸せな日々を過ごすことだけを願っていらっしゃるのです。
そうした願いから、種種巧妙(相手に応じた様々で巧妙な方法)で「利益の善巧を廻らす」のです。そうした一切の差別を為さず、周囲の人々に救いの手を差し伸べていくのが「利行」なのです。このみ教えは今章冒頭で登場した「自未得度先度他(自分よりも相手が救われることを優先する)」のみ教えにも通ずるもので、まさに「周囲に存在するあらゆるいのちとの関わり方」を説いたものであるということができます。人と関わっていくときに、その人の家柄や性別で関わり方を変えない(相手に媚び諂わない)。また、人の欠点ばかりを指摘し、むやみやたらに批判しない。そうしたお互いに心穏やかに関わることができるような、平等で差別なき関わり方を「利行」のみ教えを通じて、身につけていきたいものです。