第32回 「菩提心(ぼだいしん)(おこ)す人 −名君・(さい)英文(えいぶん)総統に学ぶ

大凡(おおよそ)菩提心の行願(ぎょうがん)には、(かく)の如くの道理、静かに思惟(しゆい)すべし

修証義・第4章「発願利生」は、「菩提心を発すというは、(おのれ)れ未だ(わた)らざる(さき)に、一切衆生を度さんと発願(ほつがん)し営むなり」という一句で始まります。周囲のいのちに対して、みんなが笑顔になり、喜びが感じられるような言葉や行いを提示できる人が「菩提心を起すことができる人である」と道元禅師様はお示しになっていらっしゃいます。そんな菩提心を起すことができる人の行願(行いや願い)とは一体何なのでしょうか―。それが今回の一句です。

是の如くの道理とあります。すなわち、これまで示されてきた「四枚の般若(はんにゃ)」が菩提心を起こして生きる人々の行願なのです。

これまで学んでまいりました四枚の般若」について、まとめと復習を兼ねて、下記に一覧で示させていただきます。

布 施 お互いに仏に近づき、喜びあえる言葉や行いをやり取りすること
愛 語 お互いに仏に近づけるような言葉を選んで会話をすること
利 行 お互いに仏に近づけるような行いを提示していくこと
同 事 誰とでも分け隔てなく、差別することなく関わること

四枚の般若は個々に存在しているのではなく、お互いに関連し、四枚の般若という一つのみ教えとなっています。すなわち、四枚で一つなのです。

その中でも中心的なのが「同事」です。海がどんな水でも受け入れるように、山がどんな土でも受け入れるように、周囲のいのちを差別なく平等に受け入れていく姿勢を持つことが、それに応じた言葉や行いを施すことにつながっていくのです。

新型コロナウイルスが猛威を振るう中、その感染拡大防止に向けて各国の首相始め、市町村の首長が日々、懸命に取り組んでいます。そうした中でコロナ対策に取り組み、その封じ込めに成功したことで、今や手腕が世界的に高評価されているのが台湾の(さい)英文(えいぶん)総統です。氏は台湾初の女性総統で、この度、2期目に再選されましたが、5月20日に行われた就任式の演説の中で、「マスクを買うために薬局に並んだ一人一人に感謝する。そのおかげで、台湾は世界の中で揺るぎない存在となった。」と市民の政府への協力に謝意の言葉を述べられました。氏のお言葉からは、総統として国民に不便な生活を強いてしまったことへの謝罪の心や、国民に対する感謝の気持ちを保ち続ける器の大きさが感じられます。こうした国民を愛する姿勢こそ同事のみ教えに生きる名君であり、コロナの封じ込めという難題を成し遂げさせたのでしょう。まさに蔡総統こそ、菩提心を発する名君なのです。

今、自分自身の生き様を振り返ってみたとき、その根底に「四枚の般若」に示されるみ教えが存在していると言えるでしょうか―。どうか、各々が自分と心静かに向き合っていただきたいところです。どこか今の日常生活に疑問を感じたり、何かうまくいっていないような気がしたりするならば、是非、「四枚の般若」を自分自身の生き方に反映させていきたいと願うのです。必ずや何かしらの変化が感じられるときが訪れることでしょう。