第23回 「五根を制す −“三毒煩悩”とのつきあい方―」


汝等比丘(なんだちびく)(すで)()く戒に住す、(まさ)五根(ごこん)の制すべし、放逸(ほういつ)にして五欲(ごよく)()らしむること(なか)


「浄戒を持つ」ということについて、ご自分の死期を悟っていたお釈迦様は、最後の力を振り絞って語り尽くされました。お釈迦様に帰依するお弟様方ならば、今のお釈迦様の状況を察し、一言も聞き漏らすまいと、お釈迦様の最期のお言葉に耳を傾けていたことでしょう。

そんなお弟子様方に対して、お釈迦様は「巳に能く戒に住す」とおっしゃいます。「あなた方は、もはや戒を完全に身につけたであろう。」と―浄戒を持つことができるようになっお弟子様たちのお姿を自らの目で確認した上で、お釈迦様は次のみ教えをお示しになります。それが「五根の制すべし」です。すなわち、「五根」を調えてほしいというのです。

「五根」とは、「眼・耳・鼻・舌・身」のことで、人間の五感を指します。五根を放逸(放ったらかしにする)せず、しっかりとコントロールしてほしいというのです。五根のコントロールとは、私たちの心の中に出現する「三毒煩悩」を断つことに他なりません。

三毒煩悩とは、事あるたびに私たちの心の中に現れる「(むさぼ)り・(いか)り・(おろ)かさ」のことです。この3つが自分の心の中に生じてしまったとき、私たちがそれに気づき、言葉や行いに変換して外に出す前に、自分の中でしっかりと断ち切ることが求められます。それが「五根を制す」ということです。五根を制することなく、放ったらかしにしておけば、たちまち、制御不能となり、煩悩を帯びた言葉や行いとなって、自分の外に出て、周囲に苦しみを与えていくのです。
「五欲」とは色(物質)・声(音声)・香(香り)・味・触(身体で感じられるもの)のことで、五根が対象とするものです。五根を制することなく過ごせば、その対象もまた、制御されることなく、乱れていくのです。

そういうことがないように、五根は制する必要があるわけですが、五根を制し、三毒煩悩をコントロールしていくことが、「悪を断ち、善を修する」という戒のみ教えにつながっていきます。三毒煩悩は人間が生きている限り、小さくすることはできても、完全になくすことはできません。人間が生きるということは、三毒煩悩と付き合っていくことであると言っても過言ではないのです。

自らに与えていただいた眼・耳・鼻・舌・身の5つの感覚を、少しでも人様に喜んでいただけるように、世間のお役に立てるように、そうした正しい使い方ができるように、普段から手入れを怠らないようにしておきたいものです。