第15回  「両忘(りょうぼう)

YES」か「NO」か・・・?
そんな「執着」を捨て、双方の価値に気づく


平成21年(2009年)6月15日から1ヶ月に渡り、高源院で写真展「撮るということ」を行わせていただいたときのことです。堂内に展示された72点の写真を撮影された写真家さんは、「写真の感想は人それぞれである。正しい・間違いを決める世界ではない。どんな感想も正しいのである」ということを仰っておられたのが印象的です。

考えてみると、私たちの周りには善悪や真偽など、相対している事象がたくさん存在しています。そうした対立する事象に出会ったとき、我々は目や耳など、自分の感覚器官を通じて、どちらか自分が好む方を選びます。その選択は、あくまで個人的な感覚によるものでしかなく、選ばれたから正しく、選ばれなかったから間違っているかと言えば、必ずしもそう断定できるものではありません。本当は双方とも価値やよさもあれば、欠点もある「両面」を具えた存在なのです。対立概念はそれを受け取る私たちが作り出してしまったものに過ぎず、それが執着ということなのです。

そこで、そうした執着から離れ、双方の価値を見出す大切さを説く「両忘(両方を忘れてみる)」を押さえておきたいと思います。「最初に選んだ方もいいが、ひょっとしたら選ばなかった方もいいかもしれない。」といった中立の見方を意識して、双方とご縁を結べるゆとりがあればいいと思います。そうした「両忘」という姿勢によって、お互いの間に生じた溝が埋まり、価値が顕現していくのです。