第28回「三不足(さんふそく)”の戒め

垢衣(くえ)旧衣(きゅうえ)とは浣洗補治(かんせんほじ)して垢膩(くに)を去って浄潔(じょうけつ)ならしめて而して之を着用すべし、
膩騰
(くに)
を去らざれば身冷(みひ)えて病発(やまいはっ)す、
又障道の因縁と()(しか)も身命に管せずと(いへど)衣足(えた)らず食足らず睡眠足らざる是を三不足(さんふそく)と名づく皆退堕(たいだ)の因縁なり。


40歳を過ぎると、自ずと組織の中堅を担う立場となり、若い人たちを指導することになります。服装や所持品等、目に見える身なりに関することから始まり、食生活や健康状態といった目に見えにくいものに対しても注意することがあります。往々にして、食生活や睡眠等の基本的な生活習慣が乱れている人間は仕事にも影響が出ています。頼まれた仕事を忘れるなどのミスが多い人間、事故を起こしやすい人間、同僚・お客さんとのトラブルが目立つ人間、それらに共通しているのは基本的な生活習慣の乱れが仕事始め、あらゆる場面に顕れているということです。

そんな場面に出会い、若い人たちに注意をしながら、ふと自分の若かりし頃を思い返します。かつての自分と同じだと―そんな自分も様々なご縁の中で、ときには優しく、ときには厳しくご指導をいただき、今日までやってきました。本当は注意できる立場ではないのですが、自分を見つめ、自分を調えることを知らずに過ごしている若い人たちが危ない橋を渡ってケガすることがないようにと思うと、ついつい口うるさくなってしまうのです。そうしたことを自覚しながら、若い人と共に育っていきたいと願う今日この頃です。

調身(姿勢を調える)ということは、背筋を伸ばすことに限らず、服装などの身なりを調えることであり、食生活を始めとした生活習慣を調えることでもあります。つまり、自分の日常の全てを調えることであり、そうすることで、人間は世間に必要とされる仕事ができたり、人々に喜ばれるような存在になったりしていくのでしょう。それが「調身の功徳」なのです。

衣服を例に考えるならば、垢で汚れていたり、古びたりしている衣類を身につけていれば、健康を損ない、病気になります。また、過度なダイエットや睡眠不足も健康に悪影響を及ぼします。人間が生きていく上で健康が第一であり、健康を損なえば、修行などできません。

瑩山禅師様は坐禅修行の妨げとなる3つを「三不足」とおっしゃっています。衣服、食、睡眠の3つが不十分なことです。そして、この3つが不足すれば、人間は怠けるようになるのです。三不足によって、自分の身心が調わなくなるのです。

誰しもよい仕事がしたいと願い、充実した毎日を過ごしたいと願ています。そう願うのならば、衣服・食・睡眠の3者が不足しないように留意して、日々を過ごしていきたいものです。