第41回「煩悩の調整 −「stay home」中だからこそ!―


睡眠すること(なか)れ、諸の煩悩の賊、常に伺って人を殺すこと、怨家(おんけ)よりも甚だし。


「睡眠すること勿れ」というお釈迦様のお言葉が、我々に対して眠ることを禁じているのではないことは、もはや言うまでもありません。「諸行無常」という仕組みを持った人間世界を生きていく上で、今≠ニいう時間を大切に、1分たりとも時間を無駄にすることなく過ごすことで、人間は仏のお悟りに近づいていけるというのが、前回のお示しでした。ですから、「睡眠すること勿れ」は、「時間を大切にすることを心がけながら、惰眠を貪ってはいけない」ということであり、怠けてはいけないという「不退転(ふたいてん)」を説いたものであると捉えるべきでしょう。

そして、お釈迦様は人間誰もが有する「煩悩」について、触れていらっしゃいます。今一度、煩悩について、下記の一覧表で確認しておきましょう。煩悩は「三毒煩悩」と言い、人間が生きている限り無くすことのできぬ3つの毒のごとき厄介な存在です。

貪り むさぼり 自分の欲望をコントロールできなくなること
瞋り いかり 自分の感情をコントロールできなくなること
愚かさ おろかさ 娑婆世界(人間世界)の道理・仕組みを自分勝手に解釈し、事実の通りに捉えようとしないこと

こうした三毒煩悩は我が身心を抑えきれなくなって他者のいのちを害したり、他者の所有物を強引に奪い去ったりするような賊のごとき存在です。そして、私たちの中に発生すれば、言葉や行いとなって、私たちの外に出て、周囲に害をもたらし、苦しみを与えていきます。煩悩の発生に定まったタイミングなどありません。毎晩12時になったら現れるというものではなく、いつでも発生し、人を苦悩の渦の中に巻き込んでいく可能性を秘めているのです。そして、それは「怨家」という、自分の敵よりも恐ろしい存在なのです。なぜならば、自分の敵は自分だけを狙ってくるのに対して、煩悩の賊はあらゆるいのちに害を与えていくからです。それは今、世界中を震撼とさせている「新型コロナウイルス(COVID19)」のような存在なのでしょう。

新型コロナウイルスによる感染症対策として、「stay home」ということが言われております。不要不急の外出を控え、自宅待機することで、感染症拡大を皆で防止しようという取り組みです。そうした自宅待機中、「煩悩」という観点で、これまでの自分を振り返り、自らの中に発生した煩悩を言葉や行いにして面に出さない方法を考えひとときを、こんな時期だからこそ、敢えて設けたいものです。これこそ、「煩悩の感染症拡大防止対策」と言えるでしょう。以前のような多忙が戻れば、そうした時間を取ることは至難の業です。そうやって、緊急事態宣言が解除され、以前のような日常が再開できたとき、少しでも多くの方が煩悩を調整しながら、よりよい毎日が過ごせることを願うばかりです。