第38回「稽古照今(いにしえをかんがえていまをてらす)


先人の経験や教えを学び、日々の生活に生かしていく


この禅語では、「稽古(けいこ)」と書いて、‶いにしえをかんがえて〟と読んでいます。習い事や鍛錬を意味する「稽古」ですが、これは、そもそも、(いにしえ)を慕い、古を考えることによって、学習や練習に励むことを意味しています。そんな稽古によって、今を照らすということは、過去に生きた先人たちの体験や教えを学ぶことが、我が人生を輝かしいものしていくと捉えるべきでしょう。

新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、様々な行事・イベントが中止や自粛となりました。石川県内でも青柏祭(せいはくさい)(国重要無形民俗文化財指定・ユネスコ無形文化遺産登録)等の祭りや金沢マラソンが中止となりました。いずれも史上初の決定とのことです。1000年近い歴史のある青柏祭においては、記録に残る中で初めての中止とのことでしたが、金沢マラソンを始め、戦後に始まったイベントの多くは中止の前例がほとんどありません。過去に前例があれば、当時の記録を読み返すなどして、対応策を講じることができたでしょうが、前例がないために、その対応策自体が暗中模索の中で考えていかなくてはならなかったことでしょう。イベントの執行者側に携わる方々の苦慮が慮られます。

そういう意味で、よりよい今を目指す上で、過去を学べる記録等の重要性に気づかされるわけですが、5月に入り、北國新聞では「流行病(はやりやまい)の北陸史」というコーナーが設けられ、興味深く読ませていただきました。このコーナーは、今から100年前の1918年(大正7年)—1920年(大正9年)にかけて、世界的なパンデミック(大流行)となった「スペイン風邪」による当時の北陸の様子を学ぶことを目的としたものです。スペイン風邪は後年の研究によって、インフルエンザウイルスによるものであったことが判明した伝染病です。

1918年11月16日付の記事には、金沢市の児童総数15,300人に対し、8割に当たる12,183人の児童が悪性感冒に罹病し欠席したことや、相次ぐ死者で金沢市内の火葬者数が平時の3倍を超えたことが記録されているそうです。スペイン風邪による死者は世界で2千万~5千万人、国内で25~45万人とのことですから、今回のコロナ同様、海を渡って全世界に感染が拡大し、多くの人々を苦悩させた点では、典型的な前例だったことが伺えます。

当時の金沢市内における全児童の8割がスペイン風邪に罹患した背景には、皆勤賞を目指し、多少、体調が悪くても登校させる風潮が少なからず影響したのではないかと、当時の新聞は記録しています。勉学や労働に真面目に取り組むのは大切なことですが、これからの時代は、感染症が発生したら、今回のように直ちに休校、自宅待機、在宅勤務等の処置を講じ、その中でどう学習し、どう働くかを今後は考えていくことが求められてくるような気がします。

ちなみに、コロナの除菌にはアルコール消毒がいいとのことで、大量の飲酒をしようとしていた酒好きな方がいらっしゃいましたが、100年前にも同様の方がいらっしゃって、昼夜の飲酒によって、却って死期を早めたという笑えない話もあるようです。過去は様々な情報を現代の私たちに発しています。一つ一つ学びながら、よりよい日常生活を目指していきたいものです。