第71回「“心を(おさ)める”ことの習慣化」

()不忘念(ふもうねん)ある者は、(もろもろ)の煩悩の賊、則ち()ること能わず、
是の故に汝等常(なんだちつね)に当に念を(おさ)めて(むね)()くべし。


「不忘念」とは、「正法(しょうぼう)(お釈迦様がお示しになった正しい道)を常に意識して過ごすこと」でした。そうすることによって、私たちは自分の中に知らず知らずのうちに発生してしまった三毒煩悩(貪り・(いか)り・愚かさ)といった悪しきものを調え、表出させないようにすることができるようになります。それが「諸の煩悩の賊、則ち入ること能わず」の意味するところです。

だから、「常に当に念を摂めて心に在くべし」とお釈迦様はお弟子様方にお示しになります。「摂」には、「調える」とか、「正す」という意味があります。禅門には12月8日のお釈迦様の成道(じょうどう)にちなみ、12月1日から8日までの約1週間、他事を一切行わず、坐禅三昧の1日を過ごして、自分の心を調えていく「(せっ)(接)(しん)」という修行があります。特に12月の摂心は12月を“臘月(ろうげつ)”と呼ぶことから、“臘八摂心(ろうはつせっしん)”と申しますが、こうした仏縁を通ずるもよし、とかく、日常生活の中で、煩悩という悪しき賊が我が身に入り込んで、周囲のいのちに苦悩を与えぬよう、自らの心を調えることを“心に在く”(習慣化させる)ようにしていきたいものです。

令和3年の新春を迎え、1月3日は恒例の檀信徒宅への年始のご挨拶にお伺いいたしました。新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからず、東京都始め関東地方の一都三県の知事が政府に緊急事態宣言の再発要請をする状況下、予定されていたご法事等の延期を決断するお檀家さんも何軒かございました。そうした中で、空いてしまった時間をどうしようかと、年始挨拶の後、子どもたちの初売りで立ち寄った書店で目に付いた数冊の本を購入し、空き時間を読書に充てることにしました。私が選んだ本の一冊は“「怒らない人」が人生
10倍得をする”(植西聰 ロング新書)です。この本を読んで心を摂めることを習慣化させていくことを願いつつ、機会を見つけては、その内容をご紹介できたらと思っています。

今年は読書で過ごす静かな一年が始まりました。