曹洞宗管長告諭

本文 解説

いま、私たちは多くの苦難に直面しています。新型コロナウイルス感染症の全世界的な拡大により、多くの尊い生命いのちが失われ、人びとは深い悲しみの中にいます。また、戦争、貧困、格差などの社会不安、近年頻発する自然災害は、私たちに大きな痛みをもたらしています。

今日(こんにち)、曹洞宗の信仰に生きる私たちは、どのような生き方を目指すべきでしょうか。

お釈迦さまは、人生における苦悩の中で、菩提樹のもと、坐禅を重ねられ、お悟りを開かれました。その御教みおしえは、祖師方によって相承そうじょうされ、いま、私たちもいただくことが出来ます。身を調え、息を調え、心静かに坐りましょう。仏さまの智慧と同じ正信心しょうしんじんにより、ものごとを正しく見ることが出来ます。その時、おのずから他者を思いやり助け合う慈悲のこころが育まれるのです。

私たちの社会ではさまざまな分断が現出しています。感染症の広がりにより人間関係のさらなる希薄化が進む中、いまこそ、一人ひとりが菩提心をおこし、人と人との温かなつながりを深めていかなければなりません。お互いに手を携え、四摂法ししょうぼうの「同事どうじ」のおさとしをぎょうじてまいりましょう。

すべての人びとが救われることが御仏みほとけの願いであります。

日々の生活の中で、仏さまにを合わせ、世界中の人びとが安らかに暮らせるよう祈り念じ、皆ともに菩薩行を進めてまいりましょう。

 合掌

南無釈迦牟尼仏なむしゃかむにぶつ
南無高祖承陽大師道元禅師なむこうそじょうようだいしどうげんぜんじ
南無太祖常済大師瑩山禅師なむたいそじょうさいだいしけいざんぜんじ

 令和3(2021)年4月1日
                        曹洞宗管長 南澤道人

“コロナ”なる未曽有のウイルスに翻弄されて、約1年半(令和3年9月3日現在)、現時点での世界における新型コロナウイルスの感染者は2億1,800万人、その内、死者は454万人を数えています。また、日本国内における感染者は約152万人、死者は1万6千人とのことです。特にインドから入ってきた「デルタ株」によって、今まで以上に感染が拡大すると共に、今後も南米由来の「ラムダ株」やコロンビア由来の「ミュー株」がまん延することは予想されます。こうした状況下において、一日も早いワクチン接種による感染拡大防止を願うばかりです。

そんな中で、長引く巣ごもり生活や自粛疲れによる精神的なストレスによって、人々の心が乱れると共に、、ソーシャルディスタンスや人流の抑制によって、人間同士が関わり合う機会が減少する一方です。まさに、管長様がご指摘になっている「人間関係のさらなる希薄化」を身を以て感じている方は大勢いらっしゃると思います。

そんな時代だからこそ、“人と関われる機会”を貴重なご縁として、大切にしていきたいものです。コロナ禍においては、今まで以上に限られた短い時間の中、マスクで顔半分を覆い、距離を取りながらの関わりが求められますが、お互いに相手の苦悩に寄り添い合い、明るい笑顔と温かい言葉を以て相手と接し、“関われたご縁”を喜び合いたいものです。それが、四摂法の「同事」なのです。

こうした「同事」を心がけていく上で、我が身(生き方)・我が心づかい・我が息づかいが坐禅を重ねて悟りをお開きになったお釈迦様の如く、穏やか且つ丁寧なものを心がけていけるように―それがコロナ禍の中で生かされている人々に対する管長様の願いなのです。