盃事(さかずきごと)

一つの盃を取り交わすことによって、人間同士の関係性を結んだり、お互いの約束事を取り固めたりすることは、昔から行われていた習慣です。これは「共食信仰」に基づく習慣と言われ、特に日本の婚礼儀礼の場面では、新郎新婦が盃を取り交わして、永遠の契りを結び、魂の共有化を図ります。これが仏前結婚式における「盃事」で、式における中心的な場であり、重要な意義を持ったものであると言っても過言ではありません。

盃事は「三三九度」と申しまして、新郎新婦が大・中・小の3つ重なった同じ盃を用いて、三度のお神酒をいただくという形で行われます。そもそも酒は神事においていただくものであったそうですから、仏前結婚式という場面にそぐわないような印象を覚える方もいらっしゃるとは思いますが、仏前結婚式では仏教のみ教えだけに捉われてることなく、古来から伝わる民族習慣も織り交ぜながら、新郎新婦の幸せを願うと共に、式にご縁のあった全ての方に、仏縁を育んでいく場の提供が大切なテーマであることを押さえておきたいものです。

ひょっとすると、“共食”という思想を有した盃事は、コロナ禍の時代を反映して、いつかは失われていく習慣なのかなと思ったりもしますが、古来から多くの人同士が固い絆で結ばれていく上で欠かせなかった習慣を、多少スタイルが変わっても、その意義や重要性を踏まえ、これから先も続いていくことを願うばかりです。