「報恩」は読んで字のごとく、「恩徳に対して報酬すること」を指します。新郎新婦は仏前結婚式を通じて、人々に正しい身心の調え方を提示してくださる仏様とのご縁を育み、人として、夫婦として、仏のみ教えに従って日々を過ごすことを誓いますが、そうした仏様とのご縁に気づくと共に、常に正しいお導きを提示してくださる御恩に報いることを決意し、報恩の諷経(読経)が捧げます。これが「両家報恩諷経」です。
そもそも仏教は、今から約2600年前に、お釈迦様が坐禅修行を通じてお気づきになったこの世の真理です。その真理が、やがてインドから中国、そして、日本へと、多くの祖師方に伝わっていきました。今、仏前結婚式が営まれているお寺も、道元禅師様によって日本国に根づいた仏法の芽が、お寺のご開山様まで拡がり、この世に誕生しました。そして、そんな背景を有するお寺が歴代のご住職様によって護り継がれ、今日に至ったのです。そうした連綿と伝わる道のりの中で、私たちは仏様や仏教とのご縁をいただいたのです。
そんな仏教祖師方に対する報恩ということと、もう一つ、忘れてはならないのが、私たちの先祖に対する報恩ということです。「修証義第1章・總序」の中にも触れらえていますが、私たちは一人でこの世に生まれてきたのではありません。父母がいて、祖父母がいて、多くのご先祖様がいて、そうした方々とのつながりによって、今の私たちが存在しているのです。そして、このつながりの中で一つでも欠けていたとすれば、今の日常は存在していなかったことに気づかされるのです。
この「両家報恩諷経」では、新郎新婦始め、ご親族全員で「般若心経」という、多くの仏教経典の中でも知名度の高い、ポピュラーな経典をお読みしながら、報恩の焼香を捧げます。仏前結婚式における仏縁を肌身で感じながら、今の自分が存在している意味を再確認し、これから始まる一日一日を大切にしながら、“いただいたいのちを調える”ことを意識して、過ごしていきたいものです。