第54回 「松樹千年翠(しょうじゅせんねんのみどり)

どんな逆境に巡り合おうとも、前を向き、力強く生きていく

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、昨年・一昨年のゴールデンウィークは、様々な“おうちで●●”という言葉が登場したように、どこにも出かけず、家で静かに過ごす連休となりました。

それに対して、令和4年(2022年)は“3年ぶり行動制限なしGW”ということで、多くの人が待ってましたと言わんばかりに連休を満喫。各地の観光地は賑わい、コロナ前の水準に戻ったという声も多々聞こえてまいりました。ほとんどの方は感染症対策を施した上で行動していらっしゃったとは思いますが、果たして、これまでの2年間の感染状況を思い起こすに、今回のゴールデンウイークの人流はどんな結果を引き起こすのでしょうか・・・?不安の念が拭えないのも確かです。

とは言え、こうした状況下、住職も三児の父親ゆえに、過去二年間のように過ごすことは難しく、感染症に留意しながらの家族サービスを挙行しました。どこもかしくも、サクラは遥か昔に散ってしまい、サクラにとって代わるようにしてツツジの花も見頃も終盤に差し掛かっているような感がありました。まさに辺り一面に緑がまぶしい新緑の季節です。終わりかけのツツジを見ながら、四季折々に変化していく花々には、その時節しか味わえない魅力があるのを再確認しました。

それに対して、季節の変化に関係なく、ほとんど同じ姿のままでいる植物もあります。その代表的存在が“マツ”です。葉が枯れれば茶色くなって落葉するものの、すぐに新しい青々とした葉が生えてきます。そうした変化はあれども、年がら年中青々(翠)として、不変であるかのような姿(千年)を保ち続ける松の木(樹)の特性を捉え、その常住さに重視した禅語が「松樹千年翠」です。季節に応じて変化し、一度は人の心をグッと惹きつける場面のあるサクラやツツジのような花とは違って、年中不変で、花を咲かせるような目立った場面を持たぬマツですが、太陽が照り付ける真夏の暑い日も、大雪に埋もれた真冬の寒い日も、気候に関係なく不動の青さを演出する生命力に感銘を覚えずにはいられません。

「諸行無常」という、万事が変化していく世界に生かされる私たち人間ですが、自分を元気づけてくれるような存在ばかりならばいざ知らず、時には自分を落胆させる出来事に出くわしたり、不安を与えるような言動を提示してくる人間と出逢わなくてはならないこともあります。そうした周囲の影響を受けて、常々、変化していく私たちですが、暑い日も寒い日も常住不変の姿を提示しているマツのように、少しの変化で落ち込んだり、怯えたりすることがないよう、どんな変化にも屈せずに受け止めて、前向きに元気に生きていけるようになりたいものです。