「うわあ、おもしろそうだねえ。 ね、ね、どこからまわる?」
リュックは、すっかり はしゃぎモードに突入だ。

 きれいな色使いのテント、花飾り。 
食べ物や、アクセサリーを売る店が並んでいる。
ああいう店には掘り出し物があるんだ、と言って、パインが歩き出した。

「あたしたちも、行ってみようよ。 なんか、いい匂いがするし」
リュックがユウナの手を引っ張って、パインの後を追う。

 あちらこちらに日よけテントが設置されていて、みんなそこで休んだり、物を食べ
たりしている。
ユウナとリュックも、大きな葉っぱをお皿にして、甘い焼き菓子と、カットした果物を
食べた。

「どうだ、これ」
そこへパインが戦利品を見せびらかしに来た。 
得意げにしているのは、気に入った品物が見つかったからだろう。

「どれどれ、見せてー」
包みが開かれ、三人は頭をくっつけてのぞきこんだ。

 元気そうにはねた、ユウナの暖かい栗色の髪。 
派手に飾った、リュックの長い金髪。 
金属みたいな光沢を持った、パインの黒髪。
楽しそうに騒ぐ三人は、数々の危険なミッションを仕事としているスフィアハンター
には見えない。

「おおー、これは…!」
リュックが、いぶした銀のブローチを手に取った。 
剣にバラがからみついたデザインで、繊細な細工が美しい。

「ふうん、その良さがわかるんだ。 尊敬ポイント三点プラス」
「たった三点ー? むうー、パインのけち」

「あ、かわいい! 見て、リュック」
ユウナの目にとまったのは、ブレスレットだった。 
パインの好きな銀のチェーン。 
やはり銀製の小さなチョコボが、鎖の輪のひとつにぶら下がって揺れている。

「買い物上手だねえ、パインは」
リュックも感心して、しきりにうなずいた。

「ふふーん。 今回の本当のお宝は、こんなもんじゃないぞ」
パインは不敵に笑った。

「お宝!?」
ユウナとリュックの声が高くなる。
「ほんと? 見、見せてよ」

 期待通りの二人の反応に気を良くしたパインは、ポケットから何かを取り出した。
とっておきを大切そうに出すパインを、ユウナとリユックがからかった。
「かくしといて、良かった、って感じ?」
「あーあ、せっかく持ってたのにぃ、かもよ」

「ばーか」
パインは大げさにあきれたフリをしながら、取り出した物を宝の山のてっぺんに置
いた。
「ん?」
「へ、え…」

「?…」
えへん、と胸を張っていたパインは、なんだか気の抜けた二人の手応えに、ろくに
確かめもせず取り出した品物を改めて見た。

鈍い銀の光を放つ、チェーンやメダル、リング。 
そんな、いかにもパイン好みの品々の上には、小さい石のモーグリが、ちょこん、と
座っていた。
「ちっがーう!」

「ピンク色、だね」
と、ユウナ。

「つるつるして、キャンディーみたい」
食いしん坊のリュック。

「パイン、ほんとは、こういうのが好きなんだ」
「これが、パインのお宝か… かーわいー」

「だーかーら、違うって言ってるだろう!」
パインはあわててピンクのモーグリを、またポケットにねじ込んだ。
「さわった感じが似てたんで、まちがえたんだ!」

「顔、真っ赤だよ」
「シメるぞ!」
パインは、リュックをぎーっとにらむ。
「こっちだ、ほらっ!」
別の何かを、ほい、と、ユウナの手に乗せた。

「あ!」
ユウナは小さく叫んだ。

「すごい… マジ、本物だよ」
リュックの声がうわずった。

 ピンクのモーグリに比べて、ずいぶんぞんざいに渡されたそれは、スフィアだった。

「きれい…」
ユウナは手の平で光を放っているスフィアに見とれた。 
今までにゲットして来たものより小さい。 その分、密度があるように感じる。

「色がまた珍しいよねえ、青色なんてさ」
リュックの渦を巻いた瞳が、うれしそうにクルクル回った。

「海の色」
ビサイドの海みたい、とユウナは思った。

「店主は、儀式用の宝玉だと思ってたぞ」
今度こそ、えっへん、とパイン。

「ね、ね、なんかすっごい情報、記録されてないかなあ? これ」
リュックはレア物らしいスフィアに、わくわくしている。

「そうだね、シンラ君によく調べてもらおうよ」
ユウナもにっこりしながら、両手にスフィアを包みこんだ。 
その時…

「あれ?」
風の音? 鳥の声?
気がつくと、ユウナは青いスフィアを耳に押し当てていた。

「どしたの、ユウナん?」
リュックとパインが不思議そうに見ている。

「あの、なにか、今…」
聞こえなかった? ほら、ひゅうっ…ぴいっ、ぴいいっ…

「ああ、わかった! このスフィアに記録されている音だ。 …なんの音だろう?」
パインが首をかしげた。

「指笛… みたい…」
ユウナの声はすこしかすれ、まつげが細かく震えて瞳をおおっていった。

「指笛…! もしかして、あいつに関係あるのかな…」
思わずリュックはスフィアを覗き込んだ。 

透明な青い光の中に、てがかりは何も見えない。

            

「あいつ、か」
パインも、あいつ、ティーダのことは知っている。

ユウナとティーダはね、会いたい時には指笛を吹こうって約束してたんだよ。 
そう、リュックが言ってた。
 
…どこにいても、きっと、キミの所に行くから…

 パインはユウナの肩にそっとふれた。 
「そのスフィアは、ユウナが持ってるといい」
あいつに、つながっているかも知れない、…なんて確信のない慰めの言葉などは
言わないパインだった。

「そうだよ、アイツにつながってるかも知れないよ」
リュックは言った。

「うん。 ありがとう」
キミにつながっているのかも、知れない。 
つながっていないのかも、知れない。 
…でも、握りしめた青いスフィアが、希望を持って歩き続ける力を与えてくれた気が
する。

 伏せていた目を上げ、ユウナは微笑んだ。 
無理も我慢もしていない自然な笑みだった。

「きっと、ラッキーアイテムだよ。 いいなあ」
リュックはちらっとパインを見た。
「さっきのさ、ピンクのモーグリ、いらないのなら、あたしにくれない? 
あたしの開運のマスコットにするからさ」

「ダメだ」
パインはにべもない。
「ええー、だって…」
「わたしも、…要るんだ」
ふっと視線をそらせるパイン。

「もしかして…マジでお気に入り…?」
 
「さて、と。 楽団でも、ひやかしに行こうか」
パインは荷物を手早くしまうと、トーブリのテントに向かった。

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