「待ってパイン。 行こっ、ユウナ」
リュックも立ち上がる。
「うんっ!」
ユウナの声に明るさが戻っている。

…ラッキーアイテム、か…
パインはまたポケットを探った。
「リュック、ほらっ!」

 ぽいと投げられた物を、リュックはあわてて受け取った。
透き通った緑のサボテンダー。

「わお、これくれるの?」
リュックはニッコニコの顔をパインに向けた。
「ありがと。 うれしーっ!」
素直に喜ぶリュック。 

 パインは少し照れて、視線をさまよわせた。 
その目がユウナの顔に止まり、くちびるの動きを読んだ。

 アラ、あんなものも、買ったんだ。
それからユウナは、やんちゃな弟の可愛い面を見つけたおねえちゃんの表情で、
パインに微笑んだ。

「ちっ」
隠してた趣味がばれてしまったじゃないか。

 パインの足が速まった。 
残る二人も、野外舞台のあるトーブリのテントへ、小走りに続いた。

 トーブリのテントは大きくて華やかだった。
きれいに飾り付けられた野外ステージでは、トーブリご自慢の楽団が、今まさに祭
りを盛り上げ…
「…て、ないじゃーん!」
リュックが大声を上げる。
「どうしたのさ、トーブリ。 あたし、楽団好きなのにー。 早くやってよー!」

 リュックの文句が聞こえたらしい。 
小柄なトーブリがちょこちょこ駆け寄って来た。
「ああっ、かもめ団の皆さん! よかったー、お探ししてたんですよ」

           

「え、なんで? 何かくれるとか?」
もらいぐせがついたのか、リュックはうれしそうにトーブリに手を出した。

「いや、あの、そうじゃないんです。大変申し訳ないんですが」
トーブリは両手をせわしなく振り回してそう言った。

「もう、リュックったら。 …どうしたんですか、トーブリさん」
恐縮した様子のトーブリが気の毒になって、ユウナは聞いた。

「ええ。 あの。 …困ったことになってしまって。 …楽団員が、乗り物酔いで、
演奏できないと言うんですよ」
胸の前で祈るように手を組み、トーブリはユウナを見上げて言った。
「忘れません、雷平原でやったユウナさんのコンサート。 大成功でしたよね」

「ユウナ、あっち行こう」
パインがユウナの腕を引っ張る。 
すばやくトーブリも、ユウナのもう一方の腕にとりつく。
「スピラ中で、すばらしい評価を受けたんですよ、かもめ団さんのコンサート」

「ユウナ」
「助けてくださいよ、お願いします!」
甲高い声で、トーブリはユウナにすがる。 
遠目にはオヤツをねだっている子どもに見えるだろう。

もちろん、トーブリにとっては、オヤツどころの騒ぎではない。
せっかく得たイベントプロデューサーとしての信頼を、ここで失うわけにはいかない。 
こっけいに見えはしても、彼は必死だ。

「…ユウナ…」
「パイン、わたし…」
「わかった。 …やるんだな…」 
ため息と同時に、パインはつかんでいたユウナの腕を離した。

 ことのなりゆきを歓迎したのは、ニギヤカ担当のリュックだった。 
「コンサート、おもしろそー。 やろう、やろう!」
「うおおー、やるぞ、やるぞー!」
「え」
テンション高めのアニキの声に、三人娘はぎょっとして振り向いた。
  
 アニキとヒクリ。 そして三羽のチョコボが並んでいる。
「クエー」
「ク、クエー」
バタタッ。 
そこへ、わーい、チョコボだー、と、子どもたちがわらわら寄って来る。 
その中には子ども団の姿もある。 
当然シンラが一緒だ。

「かもめ団、最っ高のライブやるぞー!」
アニキが天に向かってこぶしを突き上げる。
「うおー!」
騒ぎたいだけの、リュック、シンラ、ヒクリが応える。 
甲高いトーブリの声も加わる。 
チョコボがケーッと鳴き、ちびっ子たちがきゃーきゃーわめく。

 うっ、とパインは頭痛を耐えた。

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