いきなり真昼のようにあたりが明るくなったと思うと、空に赤い花火が広がって、
どん、とお腹に響く音がした。
わあっと声が上がる。

次から次へ、どん、ばらばらっ、と小気味のいい音をたてて、赤や青の大きな花が
夜空に開く。
そのたびに広場は、感嘆の声、拍手に満たされた。

「ユウナん、どこ行っちゃったんだろうねえ」
モーグリの姿を群集の中に探しながら、ケットシーが言った。
「気がついたら、いなかったんだよね」

「そのうち帰ってくるさ。 オトナなんだから」
トンベリがケットシーの背中をポン、と叩いた。 
ちょうどその時、また赤い花火が打ち上げられた。
「うっわー! きれーい!」
「ほんとだ。 トーブリは、マジで気合入れたんだな」

ケットシーとトンベリはみんなと一緒に、拍手した。 
ふんわりしたきぐるみの手は、ぽふぽふとしかいわなかったが。

 いつのまにか、二人のまわりに、子どもが寄り集まっていた。
「ケットシー、かわいいー」
「え? へへへ。 ありがとニャー」

「リュックさ、子ども引き寄せフェロモンでも出てるんじゃないか?」
トンベリの肘が、つんつんとケットシーの脇に入る。
「あだだだ。 ヤキモチはだめニャ」
オーバーに身をよじるケットシー。
ふー。 
トンベリは下を向いた。

 ケットシーがちびっこたちをはべらせ、花火が咲く度にピョンピョン飛び跳ねてい
ると、モーグリの白い体が、丘の方からやって来るのが見えた。
「あ、ユウ…、モーグリ、どこ行ってたのー?」
ケットシーは頭の上で、両手をぶんぶん振った。
モーグリも、顔の横で小さく手を振って返事をした。

「モーグリ、かっわいいー!」
今までケットシーのそばではしゃいでいた子どもたちが、いっせいにモーグリに
駈け寄って行く。
「あー、なにー、それー。 待てー」
ケットシーは、あわてて薄情な小さい仲間を追った。

「リュックったら。 …なんだかなあ、子どもにモテたってシャーナイじゃん、とか
言ってたくせに」
あー、やれやれ。 
肩をすくめながら、トンベリもヨチヨチとモーグリのところへ向かうのだった。

 三人の着ぐるみが揃い、子どもたちに取り囲まれる。

キーリカやルカから来た子がいる。 
金髪なのはアルベド族の子だ。 
ベベルの街の子、ジョゼの子。
ロンゾ族の女の子とグアド族の女の子が、手をつないでいる。

 ユウナ、リュック、パインは、スピラの子どもたちが仲良くはしゃぐ姿に、胸がいっ
ぱいになった。
「あたし、ナミダが出そうだよ」
ケットシーはハナ声で言った。 
モーグリとトンベリがコクンとうなずいた。


 どん! と上がった最後の花火は、赤から青へ、そして金色に変わり、たくさんの
きらめきになって消えた。 
あとには静けさと、本物の星。

 一呼吸後、わあっと、歓声がわいた。
人々は、これがナギ祭の終わりを告げる花火だと理解し、互いに手を握りあい、
肩を叩きあって、名残を惜しんだ。

 楽団が最後の曲を奏でる。 
それはスピラに古くから伝わる子守唄をアレンジしたものだった。 
優しい歌詞を口ずさむ人もいる。

 電飾が消えていく広場から、楽団の音に送られて人々が流れ出す。 
宿へ戻る人、おみやげを買う人、また会う約束をして別れて行く人。
まだ立ち去りがたいのか、広場のそこここで、歌ったり、踊ったり、ミニナギ祭を
開いている人もいる。

「あーあ、お祭り終わっちゃった」
ケットシーが頭の後ろで手を組んで、足元の小石をぽんと蹴った。
「また、会おうね」
モーグリは子どもたちに、明るく言った。
「うん、今度のナギ祭にね」
「また、遊ぼう!」
小さい友達が手を振り返す。 

みんな、それぞれの場所へ帰って行く。

「今度のナギ祭、か」
トンベリが、フフっと笑った。
「よーし、今度こそ…」
「今度こそ、何?」
モーグリとケットシーが声をそろえて聞いた。
  
「あ、あの、今度も、必ずナギ祭が出きるように頑張るぞ、ってこと」
…そして、フリルいっぱいのドレスを着る、と。

「うん!頑張ろうね!」
モーグリがぎゅっと、トンベリの手を握る。
…ティーダと花火を見るんだから!

「今度も、何度も、ね!」
ケットシーも、その上に手を重ねる。
…カッコイイ男子、ゲットするんだもんね、ちびっこじゃなくて!

 ナギ祭の目的は三人見事にバラバラだ。 
でも、スピラを守りたい気持ちは同じ。 

重なった着ぐるみの手はかわいく、力強かった。

 ナギ平原の朝   コーナートップ