どこまでも光あふれる草原。 
南にはスピラでもっとも深い森、マカラーニャ。 

 青くほの暗いマカラーニャの森を抜けると、突然目がくらむような草原が
あらわれ、旅人を感動させる。
ナギ平原。 
ふきわたる風が甘い。

 はるか遠く北の空には、ガガゼドの霊峰が、白い雲と見まがうばかりに
浮かんでいる。 
かつて、召喚士たちがシンと戦った場所。 
その戦いのすさまじさは、ナギ平原の大きさが語っている。

 …そっか、そうだよねえ。 
これくらい広くないとねえ…
ってゆっかあ、召喚士とシンが戦って山も森も消し飛んじゃって、ドバーン
と平地になった所が、ナギ平原なんじゃあ…

「楽しそうだねえ」
そう声をかけられて、ナギ平原誕生実話? を考えていたリュックは、アル
ベド族特有の、瞳が渦巻き状になった緑色の目で、となりにいるユウナを
見た。

「楽しそう? ボーっとしてたんじゃないか」
パインが笑った。 
黒い革のコスチュームがかっこいい。 
パッと見が少年みたいだ。

「ううん、リュックじゃなくて、スフィアのことだよ」
ユウナは両手をチガウ、チガウと振り、パインと一緒になって笑った。

「ボー… って、なに、ソレー!」
リュックがパインをぽかぽか叩く真似をする。 
パインもわざと大げさにガードをしてみせる。 

ふざける二人をユウナは笑顔のまま見ている。 
飛空挺セルシウスのブリッジは、三人娘がいるととても華やぐ。

 セルシウスはナギ平原の上空でホバーリングしながら、公司からの
着陸指示を待っている。
「ヤッパ、キテヨカッタナー」
操縦席のアニキは、アルベド語で副操縦席のダチにささやいた。 
ダチがコクンとうなずく。 
トレードマークのサングラスが、ちかりと光る。

 通信スフィアの操作席では、お気に入りの防護服に身をかためたシンラ
が、集めたスフィアの解析や、スフィアを通じて送られてくる情報の処理に
夢中だ。
機械を作ったり、使ったりする能力に優れたアルベド族の中でも、シンラは
まれに見る天才だと言われている。
実際、スピラの各地にシンラが設置したスフィアのおかげで、ユウナたちは
ビサイドで暮らしているワッカやルールー、ガガゼドのロンゾ族の長老と
なったキマリ、大陸や砂漠や島々に住む多くの人々とセルシウスに乗った
まま連絡をとる事が出来るようになったのだ。

 ブリッジのスフィアスクリーンには、リアルタイムでナギ平原の様子が
映し出されている。
光を受けて緑あざやかな平原には、イベントプロデューサー …
「おまつりや、だろ?」
とは、パインのお言葉。 
そう、おまつりやのトーブリが、公司と共同で作り上げた、さまざまな娯楽
遊戯施設がある。

 遠い昔、召喚士とシンが死闘を繰り広げたこの平原で、今スピラの人々
は遊びを楽しめる。 
通信スフィアは、彼らの明るい顔をたくさん送ってきた。 
さっきユウナはその映像を見て、楽しそうだと言ったのだ。

「なんかさあ、いつもよりにぎわってない?」
リュックもスクリーンに目をやる。
「そうだな、またトーブリが新しいイベントってやつを、やるんじゃないか?」
パインが、やれやれといった口調で、短く切った髪をかき上げる。
 
 …パイン先生、大正解。
アニキとダチがニマっと笑った。

 セルシウスには、ブリッジのメンバーの他に、居住区でショップを開いて
いるハイペロ族のアツアツカップル、マスターとダーリンがいる。 
それから、将来チョコボに関わる仕事につくのが夢だという、チョコボ大好
き少女のヒクリ。 
そのうえ、ヒクリとともに乗ってきたチョコボが一羽、雷平原で捕らえたチョ
コボが二羽、計三羽のでっかいチョコボたちも。
「…居住区、黄色い…」
「ああ、そんで、うるさい」

 …実はもう一人、クラスコという若い男がいたのだ。 
彼もまた、ヒクリと同じく自分の進む道を探していた。 
ヒクリと同じくチョコボに人生をささげるほどの、チョコボ大好き青年だ。 
戦いにはあまり向かないのんびりした性格で、他人を頼る才能に秀でて
いる。

「あたしさあ、クラスコって、ヒクリとラッブラブになると思ってたんだけどな」
リュックは、彼が、
「ここだー! ボク、ここでチョコボの牧場を作ります!」
とセルシウスを降り、ナギ平原の東に向かってものすごいスピードで走り
去った時、そう言った。

 クラスコとヒクリ。 
お互いあんなにチョコボが好きなんだから、うまく行きそうなものなのだが
なんと二人は、その持てる愛のすべてを、ただチョコボにだけ注ぐ、という
ところまで同じだった。

「あとで、クラスコさんの所にも行ってみようか?」
クラスコを思い出したユウナが、手を打ち合わせて言った。
「牧場も、りっぱになったもんねえ」

…そりゃあ、あたしたちが、チョコボ、いっぱい捕まえて送ったからじゃん。
…ユウナがクラスコの頼みを、ほいほい引き受けるからだ。
リュックとパインは顔を見合わせた。

「クラスコって、ホントに人を頼る才能あるな」
「ううん、ユウナんが、人に頼られる才能を持ってるんだよ」
「ああ、それ、アタリ」

「え? なになに? なんかいいもの当たったの?」
窓から外を見ていたユウナが、くるっと二人に振り向いた。

「なんでもない」
リュックとパインは声をそろえて言った。


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