「ういうい。 永遠のナギ節を祝い、スピラの平和を祈り、皆で手をとって踊るんで
す。 わたしどもの楽団も、もちろん出演します。 仮装パーティやチョコボレースも
計画中で」
「うう、すごい」
「ね、そうでしょ、すごいでしょ?」
「で、いつやるんだ?」
アニキはもうすっかり乗り気だ。
近々ですとも。 そこで、かもめ団さんにお願いがあるんです」

トーブリからの依頼は、ナギ祭をスピラ中に宣伝して欲しい、というものだった。
「…そして、ナギ祭当日には、ぜひ遊びにおいでください。 ええ、かもめ団さんは
特別ゲストですから、費用は私の方で持たせていただきます」
「おおー、特別ゲスト」
「ういうい。 では、よろしくお願いしますよ。 また連絡を入れますから」
「お?」
引き受けるとも、なんとも返事していないのに、一方的に通信は切られてしまった。

「なんだ、やっぱり仕事じゃないか。 息抜きはどうした」
事の成り行きを見ていただけのダチが言った。
「あれっ? いやっ、その、これは、」
「これは、いいかも知れないし」
シンラがうなずきながら、組んでいた腕をほどく。

「おおー、シンラは賛成か?」
味方を得て、アニキの声にハリが出た。

「うん。 仕事、と言ったって、宣伝するだけだし。 終わったら、トーブリ持ちで遊べ
るんだから、願ったり叶ったりだし」

「トーブリ持ち… タダ…」
なるほどそうか、と、かもめ団の財布を預かるダチも、頭をコクコクさせた。

「祭りだ〜」
アニキの声が喜びに裏返る。

「ボク、お祭りって、行ったことないんだ。 楽しみだし」
シンラからは、こどもらしい本音が出る。

「この計画は、おれたち三人だけで進めるのだ。 そして、ユウナたちをビックリさせ
てやるのだ」
アニキがこう言った時も、誰も反対しなかった。 
それは、楽しい考えに思えた。

 異界突入の準備や、各地からの仕事の合間をぬって、アニキたちはトーブリの依
頼を必死でこなした。
シンラにいたっては、あちこちの友達と、ナギ祭で遊ぶ約束を交わしまくった。

 そして、今日。

 いざ当日になると、アニキは皆にこの話をどう切り出したものか、わからなくなった。
あまり能天気にふるまえば、異界突入ミッション前に不真面目じゃないか、と、怒ら
れそうな気がする。 
特にパインからとか、パインからとか、パインからとかに。

「へっ、悩んでてもしょうがねえや。 とにかく行こうぜ。 祭りだ、祭りだ!」
「っしゃあ!」
「だし!」

 オトコたちのあっつい計画は仕上げにはいった。

「ナギ平原で、重大ミッション発生」
力強く言ったダチに、
「おおーっし、かもめ団、緊急出動!」
さらに力強くアニキが応じた。

 こうして、かもめ団は、ここ、平和ムードいっぱいのナギ平原へと、やって来たのだ。

            

 鼻息荒く決めポーズのアニキの右隣には、照れくさそうに指で小鼻をこすっている
ダチ。 
左には歌を口ずさんでいるシンラ。 
ナギ平原の青い空と緑が、三人のバックに明るく広がっている。

「ユウナん、パイン、こういうのも、たまにはいいんじゃない?」
と、喜びのジャンプを終えたリュック。
「うん。 そうだね」
微笑を返すユウナだが、胸の奥のにぶい痛みは消えない。

 レンとシューイン。 
不幸な二人の魂を救うために、異界をめざすユウナの決意は固い。
でも、…道の先に、キミはいないんだね… と、沈む気持ちから、抜け出せない。
…ダメ、今は落ち込んでいる時じゃなのに…

「そう、だな」
パインも、リュックに微笑んだ。 
ガーネット色の瞳がきらめく。

 パインはかつて、アカギ隊という精鋭部隊に所属していた。 
いや、するはずだった。 

 アカギ隊は、入隊試験の段階で、テスト生のほとんどが死亡するという惨事にみ
まわれ、現実には存在しない。
事件は闇にほうむられ、生き残ったパインたちも、仲間のうらぎりにあい、殺されか
けたのだ。

 なぜ、あんなことが起きたのだろう? 信じていたのに、どうして仲間はうらぎった
のか?

 その調査に好都合だったので、パインはかもめ団に入った。 
そして、かもめ団として日々を送る中で、すこしづつ自分を取り戻していった。

 ユウナやリュックと一緒に、飛空挺セルシウスでスピラを駆け、おもな仕事は魔物
退治。
意外に天然ボケのユウナ。 
ニギヤカ担当と言いながら、けっこう気配りの人、リュック。 
まったく違う性格の少女たちなのに、チームワークは最高。

パインはよく笑うようになった。 
リュックにのせられて、いろいろやってしまい、後で、顔を赤くすることもあった。

…アカギ隊の謎も、わたし一人では真相にたどり着けなかった…
アカギ隊の事件は一応の解決をむかえ、パインと昔の仲間たちは、失った信頼を取
り戻すことが出来たのだ。

 もうこれで、セルシウスを降り、新しい人生を始めようかとパインが考え出した、そ
んな時だった。
かもめ団は、スピラを静かに侵していく、邪悪な存在を確認した。
パインの、ユウナの、リュックの、戦いはまだ続いている。

…すべてが終わる日まで、わたしはかもめ団にとどまろう。 そして、大切な友のた
めに、わたしの力を使おう。

 パインの深紅色の瞳に、翳(かげ)はもう無い。

「あ、トーブリさんだ」
セルシウスの大きな窓から外を見ていたユウナが言った。 
ユウナが手を振ると、トーブリも、せわしなく大きな袖をパタパタ動かした。

「パッセたちが、もう来てる」
シンラが、子ども団を見つけて、うれしそうな声をあげた。

 子ども団は、子どもだけで結成されたスフィアハンターチームだ。 
ベベルを拠点に、おとな顔負けの活躍をしている。 
リーダーはパッセ。 
シンラとは、何度も顔を合わせている。 
が、お互い子どもの身で激務をこなしている為、のんびり遊んだことは無い。

「ボク、もう行くよ」
シンラはさっさと、何かの包みを手に船を降りてしまった。

「きっと、あれ、おみやげだね」
友達のもとへ走って行くシンラを、窓から見ながらユウナはにっこりした。

 居住区では、マスター、ダーリン、ヒクリも、お祭りと聞いて大喜びしている。
「おしゃーれ、するーよ」
と、マスター。
「いそがなくちゃ、ねえ〜」
ダーリンも、とろーんと言う。
スローモーションで動いているようなハイペロ族の二人だから、側にいる方はイライ
ラと足踏みしたくなる。 

実際ヒクリは足踏みをしていた。
「ナギ平原で遊ぶなんて、すごーい!」
ヒクリのほっぺたは、足踏みと興奮で赤く染まっている。

「ヒクリ、ちょっと」
アニキがオイデ、オイデとヒクリを手招いた。
「チョコボのレースがあるぞ。 うちのチョコボ、出してみるのだ」

「うわあっ! ホントですかあ!? あの、あたしが乗ってもいいんですかあ?」
両手の指をからませ、きらきらした黒い瞳でヒクリはアニキを見つめる。

「それはもちろん。 十六才以下のレースに応募できる」
ひょいと居住区をのぞいたダチが、かわりに答えた。

「ううっ! あたし、すぐ申し込んで来ます!」
ヒクリは、まだ支度に手間取っているマスターたちの横を、すり抜けて行った。 
かと思ったら、あわてて戻って来て、またアニキに走り寄った。
「あの、このコたちも船から降ろしてやりたいんです、アニキさん、お願いします!」

「う? あ、チョコボか。 おお、わかった」
ユウナと一緒に出かけるつもりだったアニキは、一瞬もごもご言ったが、そこはかも
め団のリーダー、快く応じてやる。

「じゃ、わたしたち、行って来まーす」
「おっさきー♪」
「悪いな、じゃ」
ユ・リ・パの三人娘が笑顔で出かける。

「じゃ、アニキ。 向こうでまってるわ」
続くダチも、ハレバレと笑顔。
「なにーっ! ダチ、オマエは待て! 待てって! 待って! こらー!」
アニキの叫びに、ダチはひらひら手を振っただけ。

「あうう…」
緑の目をうるませるアニキの肩をやさしく叩いたのは…
「クエー」
黄色いチョコボのくちばしだった。

「チョコボ… 慰めてくれるのか…」
「早く、降りたいって、言ってるんです」
ヒクリの言葉が容赦なくとんで来た。

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