繰り返されたアンコールも終わり、ステージの明かりが消えた。
平原の夜。 
満天の星が人々に安らかな感動を与えた。

 手を取りあって宿へ帰る者、夜通し開いている店をのぞく者、親子、恋人たち、
それぞれナギ平原の夜を満喫している。

 トーブリのテントでも野外パーティーが開かれていた。
スタッフもいれば、乗り物酔いから回復したらしい楽団員もいる。
アニキやユウナたちの姿もある。 

トーブリが、ユ・リ・パの三人はもちろん、かもめ団のメンバー全員を、食事に招い
てくれたのだ。

「星空の下でバーベキュー。 おおいに食べて、飲んでくださいよ」
と、皆で、騒いでいるわけだ。

「いやー、今日は本当に盛り上がりましたねえ。 ワタクシ、まだ興奮でふるえが
とまりませんよ」
トーブリはそう言って、またカンパーイ!とグラスを上げた。

「ういうい、もー、絶好調だったヨ」
リュックが串焼きの肉にかぶりつきながら言った。
「あたしのアクション、大ウケだったよね」

「うん。みんなすごいって喜んでた」
ユウナの膝の上にも、串焼きやフルーツでいっぱいのトレイが乗っている。
「うーんとちいちゃい子まで、リュッキーって」

「あははー、あれにはさ、ちょっとまいった」
リュックは頭をかきかき、ナッツいりのパンをとった。

「わたしも、まいった」
パインがぼそっと言った。 
パインは歌姫にドレスアップした後は、いつもすこし落ち込む。
「また、ノりすぎてしまった…」
と、グラスの赤い液体を、ぐっと飲み干す。

「あれさ、野生いちごのジュースだよ」
リュックが言う。
「パインが飲んでると、お酒に見えるね」
とユウナ。
「うん。 パインって、ほら、オマセだからね」

「ぐっ、ゲホッ、ゲホッ!」
「どーしたのさ、だいじょーぶ? パイン」
パインの背中をさするリュック。

 ユウナはトレイから、ぱりっとしたレタスをつまんだ。
「あ、このドレッシング、おいしい!」
「どらどら… ん、ホント」

おとなたちはおしゃべりを楽しんでいたが、ヒクリとシンラはそろそろセルシウスに
戻る、と言った。
 
「ごちそうさまでした、トーブリさん」
「ああ、ヒクリちゃん。 シンラくんも、もう休まれるんですか?」
「はい、わたし、明日チョコボレースに出るんで、チョコボの様子みたら、寝ます」
ヒクリはぺこっとおじぎをすると、特設のチョコボ舎へ向かった。 
レースに出場するチョコボは、そこで世話をするのだ。

「ういうい、それはすごいです。 かならず応援にうかがいますよー」
トーブリの声がヒクリを追いかけた。

 シンラもあくびをかみ殺す。
「ボク、まだ子どもだし」
と、セルシウスに帰って行った。

「シンラは体力不足だ。 おおーっし! リーダー自ら鍛えてやろう!」
お腹もヒットポイントも満タンのアニキ。 
金のトサカがピシっと立っている。

「もおーっ、アニキぃ、食べるもの持ったまま暴れないでよー」
「おおー、いかん! すっぽ抜けたー!」
 
 串から抜けた肉が、自分めがけて飛んでくる。 
そうある事じゃないが、ダチはなんでもないように皿で受け、美味そうに食べてしま
った。
「食べ物で遊ぶのは良くない。 バチがあたるぞ」

「うう… その通りだ…」
以前アニキとダチは、遭難して飢え死に寸前の目にあった。 
そのことを思い出して、アニキは、トレイに盛られた肉に手を合わせた。
「おおー、もったいない、もったいない」

 夜空を見上げる。 
星の位置がずいぶん変わった。
「わたしたちも、失礼しょっか。 トーブリさん、ごちそうになりました」
ユウナは礼を言って立ち上がった。

「すんごく美味しかったよ、ごちそうさまー!」
「ありがとう、トーブリ」
リュック、パインもトーブリにあいさつした。

「どういたしまして。 皆さん、お疲れ様でした。 おやすみなさい、また明日」
明るいテントの前で、トーブリは長いこと見送ってくれた。

 遅い時間なのに、楽しげな笑い声が、そこここのテントから聞こえてくる。
「ナギ祭かあ…」
夜風が気持ちいい。 
空には星。 
さまざまな色の灯りに縁取られた道を、幸せそうに寄り添って歩く恋人たち。

 長い髪の少女と金髪の青年の姿に、千年前、非業の死をとげたレンとシューイン
が重なった。
 ユウナは唇をかんだ。
「待っていて、レン。 もう少しだからね」

 ユウナがかもめ団に入って、最初に手にしたのが、歌姫レンのスフィアだった。
「スフィアには、元の持ち主の思いが残っているから、ちょっと影響うけるかも知れ
ないし」
みんながみんなじゃないけど、精神的に近い人ほど感じるらしいから、と、シンラは
注意してくれた。

 ちょっとどころでは、無かった。
そのスフィアは、千年前、スピラから一つの都市が消えた記憶を、死によって引き
裂かれたレンとシューインの悲しみを、ユウナの心にそそぎ込んだ。
…レンの願いも。

 レンを助けられず、自分も生命を落としたシューインの深い絶望は、闇のエネル
ギーになって、今やスピラを覆いつくそうとしている。
…だから、お願い… シューインを止めて。 みんなを、スピラを呪っちゃいけないっ
て。 
そして伝えて …苦しまないで… もう、いいよ、って…

 スフィアに込められた思いが、今ユウナたちを動かす。

 後ろから、誰かがそっと肩を抱いたような気がした。
目を閉じる。
キミなの? そばにきてくれてるの?

「ユウナん?」
目を開くと、リュックとパインが、顔をのぞき込んでいた。
「どしたの? 疲れた?」
「ううん。 ちょっとぼーっとしただけ」

「わたしは疲れた」
うーん、と、背伸びをするパインを、リュックがおおげさにいたわる。
「それって、体力不足だよ。 アニキの特訓、受ける?」
「あ… リュックのマッサージで治った」

「ヨーシ! 明日も燃えるゾー」
リュックはこぶしを星空に突き上げて、ガッツポーズを決めた。 
 
「元気だね、リュック」
「まったく」
肩をすくめて、首を振るユウナとパイン。
星がゆっくりと巡って行く。

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