ナギ平原の空は翌日も晴れ渡り、朝はやくから、イベント会場は活気にあふれて
いる。
今日の目玉は、チョコボレースと仮装ダンスパーティ。

「1日を遊び倒すのだー!」
「うおー!」
かもめ団も元気にセルシウスを飛び出して行った。

「チョコボレースを見なくっちゃ」
「当然!」
ユウナの言葉にリュックとパインがハモる。 
もちろん、かもめ団の名でヒクリが出場するレースを応援するのだ。
三人はレース会場へ急いだ。

「アニキさんたちはどうしたかな?」
「んもう、とーっくに行っちゃったヨ」
「あ、あそこらしいな。 …う〜ん」
「どうしたの? パイン」
「いや、…チョコボのいる所には、クラスコもいるんじゃないか…って」
「そりゃー、そうでしょ。 …え? 何? パイン先生は、クラスコが苦手、と?」
リュックがパインをからかった。
「苦手だ」
真面目にパインが答える。

「もしクラスコと会っても、天気の話しかするな。 あいつが、困ったなあ、なんて
言っても、ぜぇーったい耳を貸すんじゃない」
そこでパインは、すー、と息を吸ってから、
「ユウナ」
「わたしっスか!?」
「おまえだ」
うん、うんと、リュックがうなずいた。

 黄色地に赤と青のチョコボを染め抜いた旗がさっと振られ、大歓声の中、八頭の
チョコボは きれいなスタートで草原を駆ける。
チヨコボレースはすごい人気だった。 

プロの部、アマチュアの部、十六才以下の騎手の部と、クラス分けされ、それぞれ
二レースおこなわれる。

「ヒクリちゃんね、一番強気のチョコボに乗るんだって」
「次のレースだよ。 あー、ドキドキする」
リュックは胸を押さえた。
「フフ、自分がレースに出るみたいだね、リュック」
「うんっ、あたしさあ、出れば良かったよ。 おもしろそうだもん」
「ホントはね、わたしもそう思った」
ユウナは肩をすくめて、舌をぺろっと出した。

二人の話を聞いていたパインが、フフン、と、シンラそっくりに鼻で笑った。
「まったく、懲りてないな」
ユウナはミヘン街道で、豪快にチョコボから振り落とされた経験がある。

「あのね… ビーカネル砂漠でチョコボに乗る特訓したから、今は上手なんだよ」
腕組みをしてほっぺたをぷうっとふくらませるユウナだが、今度はリュックからツっこ
まれる。
「ほほー。 ユウナはビーカネルでチョコボに乗る特訓してたんだ。 
あたしとパインはチョコボに乗って、お宝探ししてたんだよ」
へヘン、とリュックも鼻笑い。

「ううー、くやしい…  あ、ほらっ、選手が出てきたよ!」
ちょうど、八頭のチョコボがコースに現れたので、ユウナはうまく話題を変えた。

「ああ〜 またドキドキしてきた〜」
祈るように、両手の指を胸の前でからませるリュック。
「いた! ヒクリちゃん! 六番のチョコボ!」
リュックのその手を思わずつかむユウナ。

 足慣らしのために、チョコボたちは軽くコースを走り始めた。
「ふうん。 堂々としてるな。 たいしたもんだ」
パインが言うように、ヒクリの騎乗姿はひときわ目立っている。
ヒクリが手塩にかけて育てたチョコボも、羽のつやが良く、慣らし駆けのさまは、
ほかのどれよりも力強い。

「ヒクリちゃーん!」
「がんばれー」
手を握り合ってユウナとリュックが叫ぶ。 
すると、それに応えるかのように、ヒクリが片手を上げた。
「応援、聞こえたのかな?」
「どうだろ。 でも、すんごくサマになってるよね」
「うん。 ヒクリちゃん、貫禄あるよ」

「ハレ姿だよ、リッパ、リッパ」
涙をぬぐう真似をするリュックだが、
「はああ〜、あたし、やっぱドキドキする」

「そればっかだな。 お、発走するぞ」
パインの顔も上気している。


「か…」
「なに?」
シンラは隣のベンゾを見た。
ベンゾは、口をぱかっと開けて、目はチョコボに釘づけだ。

 シンラとベンゾは、チョコボレースを見物しようと、観客席の一番前、危険防止の
柵にしがみついていた。
防護服を着たアルベド族の二人は、双子のようだ。 
でも、シンラはマスクで完全に顔を覆っているが、ベンゾはゴーグルなので、開けっ
放しの口が、バレバレになる。

「…っこ、イイ!」
走り去るチョコボを見送って、ベンゾがさっきのセリフの続きを言った。

チョコボの後に、砂埃たっぷりの風が二人に吹きつける。
「やっぱ、もう少し後ろに下がったほうがいいし」
シンラはベンゾの袖を引っ張った。
ビーカネル砂漠に住んでいるベンゾは、砂埃なんか気にならないのだが、素直に
柵から離れた。

 ベンゾはずっとシンラにあこがれていた。 
シンラのようになりたい、と思っている。
シンラはシンラで、サボテンダー自治区でサボテン語の通訳をしているベンゾを、
すごいと思っている。

大変な能力を持った二人だけど、ナギ平原で遊んでいる今は、普通の少年だ。

 さっき、そのシンラとベンゾを見物人の中に見つけたヒクリが、チョコボの上から、
片手を上げてニッコリした。
そうしたら、ベンゾは「か」と言って、かたまってしまったのだ。 

なんだか、まだ、動きがぎこちない。

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