「ユウナレスカ… か」
パインが苦笑いを浮かべる。
「正体はモンスターだったんだろう?」

「しーっ、秘密だよ」
リュックが人差し指を口の前に立てて言った。
「ああ、わかってる」
と、うなずくパイン。

「でもね、すんごかったんだよ、いっぱいヘビが生えたでっかい生首になって、暴れ
まくったんだから」
パインにはしーっとか言っておいて、リュックはペラペラしゃべり出した。
「うう〜、今でもぞっとするよ」
 
 二年前、ザナルカンドに行けば、シンを倒す力が手に入ると信じて、ユウナたち
は旅をした。 
ユウナにとっては、帰り道のない、覚悟の旅だった。

 ザナルカンドでユウナたちを待っていたのは、死人と化したユウナレスカだった。
「しびと」
パインが眉をひそめる。

「うん。 死んじゃった人の、恨みとか悲しみとか、強い気持ちが、その人の形にな
るの。 それが死人」
リュックの声が低くなる。

 ユウナレスカ、美しく、冷たい微笑み。

“召喚士ユウナ、その命の全てを使って、シンと戦える聖獣を召喚するのです。  
その究極の聖獣になるのは、あなたを守って旅した者。  
わたくしが、その力を与えてやろう。  
さあ、選びなさい、誰が聖獣になるのだ?”
凍りつくような眼差し。

 しかし、ユウナたちが驚愕したのは、美しいしびとの口から続いて出た言葉だった。

“シンは、必ず復活する。  …シンはおのれを倒した聖獣に転移し、新しいシンと
なる!”
召喚士とシンの死… 希望と絶望が繰り返されるだけで、永遠のナギ節など、
けっして来はしない。
それが、隠されてきたスピラの真実。

「そんなの、納得できるわけないじゃん。 そしたら、とうとう…」
 
 ユウナレスカは、モンスターの本性を現した。
毒とともに、呪いを吐きかける。
“死の鎖につながれてしまえ! おまえたちも、わたしのように!  終わりの無い
鎖だ! 
終わりの無い死の螺旋だ!”

「おれたちが終わらせる!」
ティーダが叫んで、ユウナレスカに打ちかかった。
 
 ワッカが駆け、ルールーが続く。 
アーロンの大太刀がうなり、キマリの槍が光った。
リュックはさまざまなアイテムを使いこなし、ユウナが召喚した聖獣はいかずちを
放った。

 戦いは激しく長く、モンスターが幻光となって消えたときには、みんなまともに立っ
ていられなかった。

 話し終えたリュックは、寒そうに両腕をさすった。

「パインはその話、ずっと前から知ってた?」
ユウナが聞いた。

「ああ。 裏から情報が入ったから。 そりゃもちろん、こんな生々しいもんじゃ
なかったけど。  あんたたちが、ユウ…、アレを倒したって…」
パインはにやりとした。
「最初はびっくりしたものさ。 なんてバチあたりなヤツらだってね」

「ひっどーい」
リュックがふくれる。
「仕方ないじゃないか。 いろいろ知ったのは、もっと後なんだから」

「まやかしのユウナレスカ。 みんなだまされていた。 …ううん、ウソの希望だと
知ってからも、ひとかけらの可能性を信じて、命をかけた…」
消えていった多くの召喚士、ガードたちを思うと、ユウナの声は震える。

「召喚士が、ユウナが死ななくても、シンを倒す方法はきっとある! 見つけてみせ
る!」
あの時、青い瞳でまっすぐユウナを見つめ、そう言ったティーダ。

 …そして、ユウナはここにいる。  ティーダは…消えてしまった。

「あんたたちが、スピラをつないでた鎖を切ったんだ!」
パインはユウナの肩に手を置いて、軽くゆすった。
「スピラは自由になった。 そうだろう?」
ユウナは、はっと顔を上げた。
パインの手から、暖かさと力が流れ込んでくる。

「だけど、事実は関係者だけの秘密、なんだよなあ」
リュックは口をとがらせた。
「隠し事ばっかりだよ」

「まあな。 でも、時にはそれがいい、ってこともあるさ」
パインは広場に眼を向けた。 揺れる人の波。

「そっか。 わざわざユウナレスカは実は… なんて、皆を悲しませる必要ないも
んね」
リュックも訳知り顔になる。

「わたし、本当のユウナレスカは、伝説通りの人だったと思う」
ユウナの顔に、輝きが広がって行った。
「自分は死んでもいいから、スピラの幸せを願った人。 今はわかるよ」

「なのに…、残された一途すぎる思いが、ねじれて、モンスターになっちゃって…
かわいそう」
リュックもしんみりする。

「だから、ユウナレスカは、伝説のヒロイン、スピラの英雄のままでいいんじゃない?」
ユウナの声は優しかった。
「そだね」
「同感」

 人の輪が大きくなった。 
かわいらしいユウナレスカ、セクシーなユウナレスカ、たくさんのユウナレスカが、
活きる喜びにあふれて、笑い踊っている。
 
 


「さて、と」
最初にパインが席を立った。
三人はテントでおやつを食べながら、なんの扮装をしようかと、楽しい相談をしてい
たのだ。
「もう決めた? ユウナ、リュック?」

「おお、パイン先生、気合が入ってるねえ」
リュックも、ぽんと、椅子から立った。
「わかるか?」
「うん」
「なんだか、こう、はじけたい気分なんだ」
パインは照れくさそうに、足元に目を落とした。

「あたしもだよ。 目いっぱいオシャレしよっと」
とリュックは、つま先で立って、クルッと回った。 
何本も垂らした細いみつあみが、宙に踊る。

「それ以上、どうデコレーションするって?」
パインは、今でも充分派手なリュックを、頭からつま先まで眺めた。
「へへへ〜」
クルッ。 みつあみのダンス。

「で? パインはどんな格好をするの?」
ユウナがいたずらっぽい顔になる。

「うん。 私は…」
リボンとフリル、そして白いレースがたっぷりついたピンクのドレスを着るんだ。 
そうパインが言うと、ユウナとリュックは、突っ立ったまま、口元に笑みを凍らせた。
「で、どう思う?」
パインは大マジメだ。

「そ、それは、ある意味すごいよ。 あたしサンセー! 見てみたい!」
石化が解けたみたいに、手をバタバタしながら、リュックは早口で言った。

「ある意味、ってところが、ひっかかるけど…」
首をかしげるパインの肩を、ユウナがガシっとつかんだ。
「パイン! わたし、期待してるから!」
「うっ」
目の前にあるユウナの瞳。
緑と青のふたつの瞳は、アヤシイ光にキラキラしている。
「絶対やるべきだよ、パイン」

リボン、フリル、レース。 飾りたてたパイン。
目を見張るほど美しいのか、目を疑うほど笑えるか。
リュックじゃないけど、見てみたい!

「う、うん…」
掴まれた肩をがくがく揺すぶられて、とぎれがちにパインが答えた。

「わたしも、負けられないなあ。 異国の姫君なんていいよねえ」
ユウナが歌うように言うと、リュックがダメダメと、首を振った。
「お姫様は、あ・た・し。 ユウナんは、王子様になってよ、それならあいてるし」
「あいてるって、そんな…」

わたしもドレスがいいー、と、三人が子どものけんかみたいな言い争いをやってい
ると、本物の子ども、パッセと子ども団がやって来た。

「ユウナさま、今いい?」
「パッセくん。 ええ、なあに?」
ユウナは、優しい笑顔を子どもたちに向けた。
「おお〜、オトナの顔を作って…」
「しっ、リュック!」

「あのね、ユウナさま、かもめ団さん、お願いがあるんですけど…」
いつもは、ツッパリ気味のハナが、珍しくしおらしい。
「これにね、サインください!」
そして、後ろ手に持っていたものを見せた。

「あ、あたしたちの、人形だー」
うれしそうに、シーフ人形を手に取るリュック。
ハナは、ユウナとパインにも、人形を渡した。
「ああ… 昨日リンさんが、売り出すって言ってたっけ」
「もう店にでてるんだな」

「そうだよ、おみやげにいいって、みんな買ってるよ」
パッセや子どもたちが、口々に教えてくれた。
「出来がいいんだよ、これ」
「ぐっ、…ぐっじょぶ、って、ヤツ?」
「なんてったって、モデルがかもめ団だから」
子ども団はお世辞が上手い。

「そう? えへへ、うれしいね」
すっかりその気になったリュックは、ペンを持ってガッツポーズ。
「サインか。 いいよ。 ほい、ほい、っとね」
 
「なんか、大スターみたいだね」
ユウナもにこにこしながら、人形の背中にサインした。

仮装パーティー2  コーナートップ