「あ、ワン、ツー、スリー、イェイッ!」
ドラムがダラララッと鳴る。 
シンラがライトに浮かび上がる。
“カモメダン”のライブが始まった。

「かわいいー」
「いぇーい!」
「マスク、とってよー!」
観客が騒ぐ。 
バシャラーン、バシャラン! 
シンバルが響く。

 アニキとダチを、赤と青のライトがそれぞれ照らす。
ギュオオーン! 
空気をひっちゃぶくようなギターの音に、じいさま、ばあさまは、抜けそうになる歯
や、もげそうになる耳を押さえる。
アニキは舞台の端から端まで駆け回り、金髪とさかを振り立てて、シャウト、また
シャウト。 
ギターをぶん回す。

「いやーん、アニキィー!」
なにが嫌なのか、自分でもわかっちゃいないらしいが、女の子のうれしそうな叫び。

 オバカなまでにエンジン全開のアニキに比べて、ダチはクール・ビユーティをアピ
ールする。
ベベベベ、とベースをかき鳴らし、白い歯を見せて笑う余裕っぷりだ。
「ダーチ! ダーチ!」
「しぶいー」
「サングラス、とってー!」
「ジミなくせに、もてんじゃねえ、くそ!」
けん騒にまぎれて、アニキも一緒になって怒鳴る。

「アニキー!」
「とさか、とれー!」
同じく騒ぎに乗じて、野太い声がかかる。 
どうやら、アルベド族の一団からだ。
「とれねええー!」
アニキが怒鳴り返す。 ワッと客が沸く。

 ヒクリがキーボードで軽快なメロディを奏で始めた。 
リズムを取りながら、首をかわいらしく振る。
「ヒクリちゃーん!」
名前を呼ばれて、ヒクリは声の方向を見た。
「あっ、おにいちゃん! ミヘン街道のみんな!」
思わず、楽器の上で、指が止まる。
 
 故郷ミヘン街道の幼なじみたちが、手を上げ、ヒクリの動きに合わせて右に左に
体ごと揺れていた。
ヒクリの兄は、手作りのボードに、ガンバレ、ヒクリ!と書いて、やはり左右に揺らし
ていた。

 ヒクリはうれしくて、ミヘンからはるばるやって来たみんなに、体をいっぱい伸ばし
て、おもいきり手を振った。 
それから、真っ赤になって楽器に戻ると、シンラに習ったとおりのボタン操作をした。

 シンラがセットしたキーボードは、いくつかのボタンやキーを押すだけで、複雑な
音楽を奏でることが出来る。 
もちろん、客席からはそんなことわからないので、ミヘンご一行はヒクリの腕前に
ただ感心する。 
「すげー、すげーわ」
「おれの妹だ!」
「かわいいーわ!」
「おれの、妹だー!!」
ガンバレ、ヒクリ!が、ますます大きく揺れる。


「うわあ、お客さん、いっぱいだよ」
舞台のそでで、出番をまっているユウナが言った。 
「うん。 燃えてきたヨオー」
リュックは興奮に頬を染めて、張り切っている。
 
 雷平原でコンサートを開いた時は、スピラの人々を一つに、という使命感があっ
た。 
でも今日は、こちらもうんと楽しんじゃおうね、お祭りだもん、と、久々に気分はノリ
ノリの三人だ。

「ホント、ドレスってすごいよね」
「うん、別のわたしが出現って感じ」
「自分でも、知らなかった才能が引き出されるんだそうだ。 シンラが言ってた」
話しながら脚はもうステップを踏んでいる。 
踊りたい、歌いたい。 
体中に音楽が満ちていく。
じっとしてなんか、いられない。

「ユウナ、いきまーす!」
ユウナのパートが始まった。

 明るく爽やかなメロディ。 
ステージいっぱいの電飾は、ピンクやブルー、花園をイメージした色にきらめいてい
る。

 ライトの中に立ったユウナに大歓声が上がる。
「ユウナさまあー」
…これはお年寄りのファン。
「ユウナちゃあぁ〜ん!」
男性諸君の、ぶっとい声。

「ユーウーナん、ユーウーナん!」
なんと、みんながウエーブを起こしている。
 
「まるで、海だね」
リュックのボルテージもマックスだ。
「ユウナん、か。 リュックと同じ呼び方だな」
パインの言葉も、はっきり聞き取れない。

 けれど、ユウナが歌いだすと、ざわめきは、引いていく波のように消えた。 
召喚士の頃のユウナは、冴え冴えとした、ガラス細工の美しさだった。 
今のユウナは、生きる喜びに輝く美しさだ。 
凛とした瞳は変わらない。

 春風にそよぐ青い花のようにユウナは舞った。 
ナギ平原の空にユウナの透き通る歌声が抜けていく。


 電飾の色がぱっと変わる。 
イントロと同時にリュックが飛び出した。
「ハッ!」
高く跳ねて、空中で一回転。 
ぴたっと着地を決め、喝采を浴びる。

両手を頭の上でテンポ良くたたきながら、リュックはステージ中央まで、軽い足取り
で歩いていく。
「ホーラ、のってけ、のってけ」
客席もこれに拍手で応えてくれる。

「んんー、つかみはオッケー! スピラのビタミンガール、リュックだよー!」
リュックのハナマル元気印、満開。
 
「リュッキー!」
「リュッキー、カッコいいよー!」
たくさんの、甲高い声援が送られる。 
…リュッキー?
沸いている会場を見回して、リュックは自分のファンが、ほとんどチビッコだと知った。

「ああ… ありがとお、みんなあ… リュッ…、リュッキーがんばるネー! …ううう」

 それでもビタミンガールは、オレンジ、イエロー、グリーンの光に囲まれ、限界突
破の笑顔で歌って踊った。

             


 音楽のリズムが速くなり、背中を見せて立っているパインに光が当たると、観客か
ら、悲鳴に近い声が上がった。
「きゃあぁーっ!」
「ステキー!」
女の子が総立ちになる。

 パイン、今、ガクっとなったよね。
ユウナの声は聞こえなくても、リュックには通じた。
リュックは大きく下を向いてうなずき、大きく上を向いて笑った。

 シャープなターンでパインが振り向く。
「パインさまー!」
「シメてーッ!」
 
 ドレスはパインをも別人にしてしまう。
いつもなら絶対やらない事でも、できる。 
というか、やってしまう。 

パインは不良っぽい笑みを浮かべた。
「火をつけてやるよ」
キヤーッ!
大騒ぎだ。
 
 パインの歌は、速くて気持ちが昂ぶる。 
ユウナやリュックよりアクションがセクシーだ。
額におちた黒髪の向こうから、紅い瞳で挑戦的に客席を見渡す。
「ワタシを見たわ」
「目が合った」
「ああ…」

 無口なパインを知っているユウナとリュックは、毎度のことなのだがオドロキだ。

 ステージも観客席も熱くして、三人のソロパートは終了。

 なかなか止まない拍手と歓声を、美しい曲がゆっくりと静めていった。 
その旋律は、スピラの人々によく知られたものだった。

「一緒に歌う?」
ユウナが握ったマイクを観客に向けて、にっこり微笑む。
あちこちから歌声がわきあがり、すぐにナギ平原に響く大合唱になった。

 懐かしい曲、楽しい曲が続き、大勢が踊りだした。

 コンサートはクライマックス。
スフィアスクリーンがこの様子を映し出していた。

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