トーブリの野外ステージから、陽気な音楽が聞こえてくる。
「楽団が演奏してるね」
「うん。 仮装パレード、やるんだよね」
歌だの踊りだのが大好きなリュックの、眼はキラキラ、渦巻きもようもクルクルす
る。

「ダンスパーティーだろ。 仮装ダンスパーティー」
 とパイン。

「あ、そうそう、それそれ。 おもしろそうだね、早く行こう。 ね、なんの仮装する?」
「仮装するのか?」
「とーぜんだよ。 あたし、どこかのお姫様になろーっと。 パインさ、王子様になって
くれない?」
「なにバカ言ってんだ」
娘たちは笑いさざめきながら、音楽に誘われて歩く人の流れに加わった。



「こっちだよ、ベンゾ」
シンラはセルシウスの入り口を開けて、ベンゾを招き入れた。

「いいの? キミたちの船に勝手に入っても」
「大丈夫。 ベンゾはボクのお客さんだし。 じきにヒクリも帰ってくるし」
「えっ! ここに?」
「そうだし。 仮装パーティの支度しに」
そう言うとシンラは、ベンゾに向き直って、ふたつの手を彼の肩にポン、と乗せた。
「…親しくなりたいんなら、チャンスだし」
防護服のマスクとゴーグル越しに、二人は見詰め合った。
「だし!」
「うん!」
同時にうなずいた時、シャッターが開いて、ヒクリが入って来た。

「あ、シンラくん、さっきは応援ありがとう」
「一着、おめでとうだし」
  
 ヒクリはベンゾにも微笑みかけた。
「ビーカネルのベンゾくんだよね、ありがとう」
ベンゾは、ぶわっと噴き出す汗を感じる。
「ヒクリさん、かっこ良かったです! 僕、僕、それで…」

「おーう、みんな戻ってたのかー!」
どやどやと、アニキとダチが帰って来た。
「よし! めかしこんでパーティーだー!」

「お、ベンゾくんじゃないか。 君はサボテン語ができるんだよな」
ダチがベンゾとヒクリの間に割り込んだ。
「すごいよな。 天才っていいよなあ。 シンラといい君といい、何でそんな事でき
ちゃうんだ?」

「そ、それは、なんとなく…」
「なんとなく、ってか? あーあ、まったく天才ってヤツは…」
ダチはオーバーに頭を抱える。

そうしてるまにヒクリは、着替えてくるね、と居住区へ行ってしまった。
ベンゾのゴーグルが悲しそうにヒクリの後を追う。
  
 
 しゃべり続けるダチから逃げられず、カクカクとうなずいてその話につきあってい
るベンゾに、シンラは同情した。
「気の毒に、だし…」
 
 
 アニキとダチも去り、静かになったブリッジで、シンラはベンゾを慰めていた。
「ボクたちもパーティー行こう。 まだチャンスはあるし」
「うん… でも、もう、いいんだ」
ベンゾは顔を上げずに答えた。
 
「なんでさ。 ダチに邪魔されたぐらい、どってことないし」
シンラは、並んで座っているベンゾをのぞき込む。
 
「さっきさ、僕、気がついたんだ」
ベンゾは、膝を抱えて、やはりうつむいたまま言った。
「ヒクリさんって、アニキさんが好きなんだよ」

「げえぇーっ! マジ!?」
シンラはのけぞった。 まったく考えてもみなかった。 
アニキに恋する女の子がいるなんて。

「アニキさんを見る眼がちがうんだよ」
ベンゾは、ゆっくりシンラに向いた。
「うれしそう、って言うか、やさしそう、って言うか…」
「そ、そうかな?」
そうだっけ? シンラにはまだ信じられない。

「うん。 そのわけも、わかってる」
「えっ、ど、どんな?」
「アニキさんって、似てるんだ、とても」
「似てる? 何に…」
聞きかけた瞬間、シンラにもわかった。
「チョコボに…」
ふたりは、大きなため息と一緒にその名を吐き出した。

 ひょろっと高い背、鳥っぽい顔。 
なにより、金色のトサカ頭。 
確かにアニキは、チョコボに、…ヒクリが愛してやまないチョコボに、ソックリだ。
「うう…」
シンラはうめいた。

「アニキさんには、かなわない、って思ったんだ、僕。 …だから、もういいよ」
「ベンゾ、…そうか…」
かなわないのが、この場合いいのか悪いのか、判断が難しい。

 
「シンラくんが気を落とすことないよ。 僕、今日とても楽しかった。 だからまた誰か
を好きになろうと思うんだ」
急に大人びたベンゾは、逆にシンラの背中を叩いて、明るい声で言った。
「やっぱり出かけようか。 仮装ってやってみたいんだ」
ぱっと、立ち上がる。
 
「そうだね。 じゃボク、ビリガンになるし」
シンラも、元気に立った。

「ビリガン? 聞いたことあるんだけど…?」
首をかしげるベンゾ。

「フフン。 雷平原に避雷塔を建てたアルベド族の技師だし」
「あー、シンラくんらしいねえ」
 
 ふたりは、それらしく見えるものを探そう、とブリッジを出た。

 こうして、ベンゾの恋は、朝日より後に生まれ、夕日の前に消えた。 
…恋と呼ぶヒマもなかった。




 昨日かもめ団がライブを行ったトーブリの野外コンサート場は、すでに仮装した
人々で賑わっていた。 
みんな、手作りの衣装や、工夫をこらしたアクセサリーで飾りたて、歴史上のヒー
ロー、ヒロインに扮している。

 芸の細かいグループが、モンスターと勇者の格好で寸劇を演じ、子どもたちに
受けている。

 しかし人気があるのは、伝説の英雄たちだ。
寺院に祭られている大召喚士や、ゼイオン。 
そして、自分の命とひきかえに、最初のシンを倒した女性、ユウナレスカ。

 彼女のおかげで、スピラに、ナギ節と呼ばれるシンのいない時期が訪れた。

 その後も、新しいシンは生まれた。 
そのたびに、英雄たちに倒されていった。
それでも、やはりユウナレスカは特別な存在なのだ。

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