第2回 「通夜 ―“涅槃図”に見るその起源―


―今から約2600年前の2月15日・静かな夜のことでした―

お釈迦様はお弟子様たちに最期のご説法をなさった後、静かにお亡くなりになりました。これを「入滅(にゅうめつ)」と申します。「滅」とは生死(しょうじ)の苦界を渡ることを意味します。つまり、お釈迦様はこの世(此岸(しがん))での生を全うされ、あの世(彼岸(ひがん)涅槃(ねはん))へ向かわれたということです。また、“正法を伝えるべくこの世に現れた”お釈迦様が、そのお役目を遂げ、この世を去ったということでもあります。(「法華経(ほけきょう)寿量品(じゅりょうほん)」より)

そんなお釈迦様の入滅の様子が描かれているのが「涅槃図(ねはんず)」」です。毎年2月から3月にかけて各地のお寺では、お釈迦様のご命日にちなみ、そのご遺徳を偲んで、「涅槃会(ねはんえ)(だんごまき)」が営まれますが、その際に本堂に掲げられているのが「涅槃図」です。涅槃図を見てみますと、中央でお釈迦様が臥していらっしゃって、その周りには、お弟子様や様々な動物たちが集っています。悲しそうな表情をしている者、合掌している者、それぞれがお釈迦様との生前の思い出を振り返りながら、哀悼の意を表しているかのように見えます。一見、寂しさがにじみ出ているようにも感じられますが、その半面で、これだけ大勢の方々に最期を看取られて、お釈迦様の生前の功績が、いかに大きなものであったかが伺えるような気もします。
涅槃図

お釈迦様の入滅後、師への強固な愛執のためか、別れの現実を受け止めきれず、泣き叫ぶ者もいれば、お釈迦様を偲び、仏法について語り合った者たちもいたそうです。そうやって2月15日の夜が明けていったそうです。お釈迦様とのご縁が深かった者たちが、故人の別れを悲しみ、偲びながら。これが、現代にも残る「お通夜」の起源です。「通夜」とは、“夜を通す”とあります。故人と過ごす最後の夜に際し、釈尊教団のお弟子様方のように、精一杯、故人を偲び、思い出話をしながら、明日からの日常において、少しでも苦悩を和らげ、仏に近づいていくきっかけとして、「通夜」に臨みたいものです。

葬祭執行者の立場として申し上げるならば、私は通夜における法話(通夜説教)は、その起源を踏まえた上で、「夜を通して故人を偲び、仏法に触れる機会として欠かせない場である」と認識しております。ですから、ほんの10分程度の短い時間でもいいから、通夜説教の場を設けるようにしています。そんな通夜説教がご遺族や参詣者の心に響き、仏縁を育んでいく場になっていくためには、住職と故人様・ご遺族様との生前の信頼関係が欠かせません。そうした日頃のお付き合いの中から、故人様が発された御仏のみ教えに満ちた言動が通夜説教の話材となり、人々の心を打つと共に、故人を偲ぶことにつながっていくと思っています。

「日頃の生き様」、「普段の心がけ」が大切であることを、通夜を通じて再確認しておきたいところです。