第19回 「大夜念誦(たいやねんじゅ)A―成道を願って−」

恭しく現前の清衆(せいしゅう)(しょう)して、(つつし)んで諸聖(しょしょう)洪名(こうめい)(じゅ)す、
集むる所の鴻福(こうふく)は、覚路(かくろ)荘厳(しょうごん)す。(あお)いで清衆を(たの)んで念ず。

三法印(さんぼういん)」(諸行無常(しょぎょうむじょう)諸法無我(しょほうむが)涅槃寂静(ねはんじゃくじょう))の道理・み教えと直面した故人様並びにご遺族様に対して、仏法に目覚め、仏道を歩んでいくことを願って、「念誦文」がお唱えされますが、これは偏に、故人様もご遺族様も共々に、「成道」することを願っているものと捉えるべきでしょう。すなわち、仏に近づき、仏の道を成し遂げていくきっかけとなるのが、愛する人との別れであり、大切な人の死の場面なのです。

「恭しく現前の清衆を請して、謹んで諸聖の洪名を誦す」とありますが、これより清衆(身心共々に清浄なる僧侶方)を呼び集めて、皆で聖者たる諸々の仏様(諸聖)のお名前(洪名)をお唱えして、「覚路を荘厳す」、「故人様が突き進んでいく仏の道(悟りの道)を荘厳(立派にかつ美しく飾り立てていく)する」ことを宣言したものです。

そして、この後、いよいよ念じられるのが「十仏名(じゅうぶつみょう)」です。その内容は次回、解説させていただきますが、仏法僧の三宝を念じながら、故人様が歩む仏様へと通ずる悟りの道が清浄なるものであることを願うと共に、その成仏が確かなものであることを願います。そして、ご遺族様も少しでも仏に近づき、人間性が磨かれ、完成されることをも願っているのです。