第31回「焼香の留意点」

葬儀におけるマナーや、焼香の作法について、書店に行けば、冠婚葬祭のマナーについて示された書籍が大量に並んでいますし、スマホを触れば、インターネットでも様々な冠婚葬祭におけるマナー等が記された記事を見かけることがあります。それらを通じて、基本的なことの大半は網羅できるようになっています。ちなみに、インターネットの「Yahoo!JAPAN 知恵袋」には、下記のような記事が掲載されていました。

http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q109335860

こうした本やサイトの説明は、非常に事細かく丁寧なものではありますが、中には実際の葬儀の場で行うには、事前に相当練習をして、身体に染み込ませておかなければできないのではないかと思うものもあります。

それでも、こうしたマナー本等が数多存在する背景には、それを求める人が大勢いらっしゃるという現実があるのでしょう。私共、宗教者が発する儀礼の意義や内容よりも、人目につきやすいマナーや作法の方が重視されるような傾向については、一考の余地があると思っていますが、そんな背景の一つには、古来からの民俗儀礼ゆえに、地域性や宗教の違いによるマナーの違いが大きく影響しているような気がします。たとえば、全国共通の決まったマナーがあるわけではないということです。ですから、何が正しく、何が間違っているのか、言わば、正否がはっきりしないという実態もあり、年長者だからといって、本当の正解を知っていて、人に教えられるものでもないということなのです。にもかかわらず、多くの人は正解を求め、ときには、地域の古老や両親など、人生の先輩に教えを乞うものの、中々、的を得た回答に出会うことができず、それゆえ、正解を提示するためのマナー本などが登場してきたのではないかと推察しております。

実際に葬儀の現場では、こうしたマナー本等に書いてあることをしっかりと身につけられて、参列していらっしゃるのではないかという方が多々見受けられます。たとえば、故人様から喪主様、導師様へと四方八方に頭を下げ、焼香を捧げる方がいらっしゃいます。世間的な立場上、正しい焼香作法を知らないと思われては困るということなのでしょうか、周囲の目を気にしながらお参りなさっているように見受けられます。もしかすると、私が参列者の立場なら、同じことをするのではないかと思ったりもします。

しかし、葬祭の場そのものが、決して、日常的なものとは言えません。大半の参列者は初めての方、もしくは、あまり参列経験のない方ばかりです。ですから、自分が世間知らずだと卑下することもなければ、正しい作法を求めすぎる必要性もないのです。。先の事例のように、まるでマナー本に記載されている通りに、四方八方に頭を下げて焼香するのも、場合によっては、却って不自然に見えることもあります。大切なことは、周囲への配慮を怠ることなく、故人様を弔い、別れの意を捧げるべく、丁寧に香を捧げていくことなのです。

その点を踏まえ、ここでは、焼香のマナーの解説は、世間に数多存在するマナー本等に譲り、私自身が葬儀の現場において見聞きしたこと、感じたことを数点に絞り、「焼香の留意点」という形でお示しさせていただければと思います。

@導師用の香炉で焼香しない
祭壇中央の香炉で焼香する方が見受けられますが、それは葬儀を務める導師が焼香するためのものです。ある葬儀社の社員さん曰く、「一般会葬者に中央の香炉で焼香する方が見受けられます」とのこと。人間の心理としては、祭壇の正面中央に祀られている故人の位牌やお写真の前で焼香を捧げたいと思うものですが、中央は導師用とし、一般の方は左右いずれかに数ヵ所ずつに設けられた焼香箇所にてご焼香いただきますよう、お願いいたします。

A焼香の仕方は各自の判断で
突然、葬儀に参列することになった方や、あまり場慣れしていない方が、マナー本通りに焼香を捧げようとすると、却って、不自然な動きになることがあります。あまり形にとらわれず、自分たちの宗派ややり方を参考にして、香を焚いていただければよろしいかと思います。

B焼香回数はその場の状況に応じて
近年のコロナ禍によって、家族葬など、少人数の葬祭が一般化しつつあり、以前のように、焼香の順番ができるほど会葬者が大勢いるという光景を目にすることは減ったように思います。とは言え、焼香はできるだけ円滑に行えるようにしたいものです。会場に準備された席が全て埋まるほど大勢の方がいらっしゃるようならば、香を焚く回数は一回だけにするといった気遣いがあってもいいでしょう。また、よく見受けられるのは、焼香箇所が空いているにもかかわらず、他の会葬者の列に並んで、順番を待つ方です。これは、正面の祭壇前が会葬者で溢れていると、空いている焼香箇所に気づかないがゆえのやむを得ないことなのですが、焼香に出る際には、できるだけ空いている焼香箇所を探すと共に、葬儀社の係の方の指示に従って焼香に出ることも意識しながら参列することも大切かと思います。

以上、焼香は周囲に気を配りながらも、短時間で故人の成仏を願い、別れの意を捧げる場であるということを抑えておきたいと思います。