第1回 「枕経(まくらぎょう) ―新たなる自己の生き方を問う場―


ご家族にご不幸があったとき、最初に菩提寺の住職が自宅を訪れ、故人様の枕頭で読経します。これが「枕経(まくらぎょう)」です。枕経は古来より、納棺(のうかん)(ご遺体を棺にお納めすること)の前に、その枕元で終夜に渡って読経するという習慣があり、それに準じて、今も営まれる儀式です。

昨今の枕経では、20分程度の読経の後、ご遺族の方々と通夜・葬儀の打ち合わせをさせていただく形が一般的です。枕経でお唱えするのは「仏遺教経(ぶつゆいきょうぎょう)八大人覚(はちだいにんがく)」です。この経典は、当HP「経典(お経)に学ぶ」でもお馴染みのものですが、仏教の開祖であるお釈迦様が80年のご生涯を終えようとしていたとき、お弟子様たちに最期のご説法をなさいました。お釈迦様は渾身の力を振り絞り、「遺言」となる「み教え」を説かれました。それが「仏遺教経」です。

こうした起源から考えてみれば、住職は臨終間際のお釈迦様様に成り代わって、最期のご説法をするつもりで枕経に臨むべきでしょう。そうやって、ご遺族様が故人様との悲しいお別れを通じて、その悲しみ癒すご縁に巡り合えるように取り計らっていきたいものです。すなわち、最期にお釈迦様がお示しになったことが、自分たちの拠り所となり、明日からの目指すべき生き様となるようにしていくということです。

そうした枕経において、生前の故人様との思い出を振り返ったり、故人様から教わったことを思い返すなどしながら、故人様・ご遺族様・僧侶が一つになって、ご供養させていただきたいものです。故人様は何を望み、何を期待しながら、亡くなっていったのだろうか?「枕経」」では、それを思い起こす場として、また、ご遺族のお一人お一人が新たなる自己の生き方を問いかけ、決意する場として、そのご縁を大切にしていきたいものです。