“大樹の衆鳥”の恐怖 
−コロナより怖いのは人間!?−

1月に加賀の曹洞宗の古刹・大乘寺様で強風のために樹齢300年と言われるモミの木が倒れ、山門に被害が出ました。私が住職をつとめさせていただいている松山寺にも高さ25メートルのモミの木(金沢市保存樹に指定)が2本あります。大乘寺様の報道始め、近年の自然災害に対する備えをという点からか、「松山寺のモミの木が倒れてこないか心配だ」という内容の匿名メールが金沢市役所届き、「緑と花の課」の担当者が来寺されたのは2月の半ばでした。高さ25メートルの大木は素人目にも遠くから見れば傾いていて、今にも倒れてくるのではという心配が沸き起こってきます。以前も近隣住民から心配の声が寄せられ、枝打ちを執行させていただいたこともありました。

金沢市役所「緑と花の課」は現地確認を行い、木の特徴について、興味深いお話をしてくださいました。以下がその主な内容です。

(1)木は人間同様“生きようとしている”。それゆえ、自分から倒れることはない。
(2)木が倒れるのは人間同様、外部から何らかの力が加わったときである。(たとえば、強風や刃等)
(3)木はその木によって伸びる最大の高さが決まっている。最大値まで伸びた木は次には横に伸びていく(枝を伸ばしていく)。枝によって下界が暗くなれば、枝打ちをしても差し支えはない。

こうした木の特徴を踏まえ、管理者として倒木や枝の落下被害等に備えての保険対応や、木の幹に傷がついたり、別の植物のツルが巻き付いて気を絞めつけたりして、木の寿命を縮めることがないようにといった配慮は不可欠であるとのことでした。

「大木を倒すのは外部からの力である」というのは、まさにお釈迦様がお示しになっている「大樹の衆鳥(しゅちょう)之に集れば則ち枯折(こせつ)の患あるが如し」と合致するものです。大きな木を倒せるのは他からやってきた鳥の大群なのです。

我々の周りには様々な情報や意見が飛び交っています。我々は時折、それらに振り回され、「大樹の衆鳥」のごとき存在になることがあります。大切なことは、そうした情報の一つ一つに捉われ、一喜一憂するのではなく、その中の何が真実なのか、何が正しいのか、それをしっかりと押さえ、冷静に対処していくことです。それがお釈迦様のお示しになっている「遠離(おんり)」なのです。

新型コロナウイルス(COVID19)が猛威を振るう中、マスクの品薄状態が今も続き、果ては、何者かのデマによるトイレットペーパー買い占めなど、様々な予期せぬ出来事が起こりました。「コロナよりも怖いのは人間である」―インターネットで紹介されたあるドラッグストアに長年勤務する店員さんの言葉です。手洗い・うがい、外出時のマスク着用等、ウイルスに対する自己防衛策を講じる方は大勢いらっしゃるかと思いますが、どうか私たち一人一人が「大樹の衆鳥」のごとき存在となって、大木を倒すようなことがないよう、情報を正しく掴み、冷静にコロナウイルスと向き合っていきたいものです。
            
 【第4回に続く】