第5回 「いかりや長介、そして、志村けん 
正師(しょうし)ありて、道開く―」


世界保健機関(WHO)及び各地のAFP支局の調査によれば、令和2年5月9日現在における「新型コロナウイルス」の感染者数は195カ国の地域で約389万6千人、死者27万1千人、回復者126万8千人とのことです。その中、日本における感染者数は約1万6千人、死者637人、退院者は約6千5百人(令和2年5月8日)とのことです。

この637人の死者の中にはお笑いタレントの志村けんさん(令和2年3月29日ご逝去・享年70歳)がいらっしゃいます。志村さんの訃報は世界中に衝撃を与えました。私にとって、志村さんは幼いころからテレビでお顔を拝見しないことはないくらいのお馴染みのタレントさんでした。志村さんのコントに大笑いし、元気をいただきました。どれだけの人が志村さんに救われたことでしょう。また、志村さんの話術からは学ばせていただいたことが多々あります。特に「志村けんのバカ殿様」に見る志村さんと家臣や腰元たちとのやり取りは、私自身の人間関係を築き上げていく上で大いに参考になり、志村さんのおかげで今があるようにさえ思うこともあります。志村さんから学んだ方も大勢いると思います。

そんな志村さんを思い返す上で、師匠である故・いかりや長介さん(平成16年3月20日ご逝去・享年72歳)の存在も忘れてはなりません。自著で志村さんのネタ作りの才能や道に対する積極的な姿勢を高評価していたいかりや師匠。それに対して、弟子の志村さんはお亡くなりになる1年前に、あるテレビ番組で「師匠として間違いない方だった」と涙ながらに語っていたというのです。

―いかりや長介、そして、志村けん―このお二人の師と弟子が、世界中を喜ばせ、人々に笑いを提供した事実の背景には、お二人ともご自分の道を真剣に歩み、大成させたからに他なりません。これぞ、お釈迦様が説く「精進」の生き様です。精(混じりけのない純粋な状態)で道をまっすぐに歩むならば、どんな険しい道も開きます。また、どんな困難な目標も達成できます。そのことをお二人が証明しています。是非、見習わせていただきたいものです。

そして、もう一つ。道を大成させる上で、忘れてはならないのが「正師(しょうし)の存在」です。正師は道を正しく得た明眼の師匠で、自分がどんな道に進むべきかを示すと共に、自分が進むべき道を正しく方向づけてくれる大切な存在です。正師が示した道を精進していくことによって、道が開けるのです。

曹洞宗の太祖・瑩山(けいざん)禅師様が加賀・大乘寺(だいじょうじ)二代目住職をおつとめでいらっしゃったとき、会下のお弟子様方にお釈迦様のみ教えが、お釈迦様以降、どうやって師から弟子へと受け継がれていったかをお示しになりました。そのお示しが瑩山様の側近たちによって筆録された「伝光録(でんこうろく)」を紐解いていくと、道を精進する師と弟子によって、仏法が今日まで絶えることなく伝えられていることがわかります。また、曹洞宗の開祖・道元禅師様は「南嶽(なんがく)江西(こうぜい)師勝資強(ししょうしきょう)、かくのごとき」(南嶽懐譲(なんがくえじょう)江西大寂(こうさいだいじゃく)のように、師がすぐれていれば、弟子も優れている)と「正法眼蔵・坐禅鍼(ざぜんしん)」の中でお示しになっています。

私たちの周りには様々な分野があり、それぞれの道を歩んでいる「正師」があまた存在しています。「人付き合いに関してはA氏、料理ならばB氏、IT関係でわからないことがあればC氏に」といった具合に、正師を求め、そのお示しに従い、道を精進していくとき、道は必ず開けます。―いかりや長介、そして、志村けん―お笑いの道を大成したお二人の生き様から仏法を学ぶと共に、お二人のご冥福をお祈り申し上げます。  合掌