第6回「“ルビーロマン”は悟りの味 ―北國風雪賞受賞者の精進に学ぶもの―」

【お断り】本稿は、令和2年5月29日付北國新聞「一隅を照らすC」を引用させていただいております

地域社会の中で地道に活動を続け、ふるさとのために貢献してこられた方々の功績を称え、世間に知らしめる「北國風雪賞(ほっこくふうせつしょう)」。第38回目となる令和2年は4名の方が選ばれました。今回の受賞者は、平成20年(2008年)から「犀川(さいがわ)桜千本の会」を立ち上げ、会員の皆さんと共に犀川両岸に1000本の植樹を目標に植樹活動に励んでおられる上村彌壽男(うえむらやすお)同会理事長始め、日夜、ご自身が歩む道で精進を重ね、数々の功績を残し、社会貢献なさている方々ばかりです。その生き様はお釈迦様がお示しになった「精進」の生き様そのもので、我々がそこから学ばせていただくことは計り知れません。今回は、そうした今年の北國風雪賞受賞者のお一人で、高松ぶどう生産組合長・ルビーロマン研究会長である太田昇氏について触れさせていただきたいと思います。ちなみに「ルビーロマン」とは、石川県において、足かけ14年の歳月をかけて誕生した赤い大粒の高級ブドウです。

1919年(大正8年)、「米一粒とれない不毛の地」と呼ばれた高松(現・石川県かほく市)の砂丘を適地と見込み、ブドウ栽培を始めたのが市村栄次郎氏でした。以来、100年に渡り、高松は県内のブドウの産地として名を馳せてきました。この間、ブドウ栽培に生涯をかけてきた多くの先人たちが精進を積み重ねてまいりました。

そうしたブドウ栽培の道で約40年近くに渡って日夜精進を重ねられ、「ルビーロマン」誕生に尽力されたのが太田氏です。氏は「ブドウの木と会話ができなかったら一人前になれない」とおっしゃいます。これは先代さんからいただいたお言葉だそうですが、素晴らしいお言葉だと思います。これは、たとえば、毎日、ブドウ畑に通って、ブドウの様子を見ながら、水を欲しているようならば、水をあげるといったことを意味するそうです。

ブドウ栽培は手間がかかるとおっしゃる太田氏。それでもブドウとの会話を重視する太田氏のお姿は、接客業がお客さんを大切にしたり、教師が生徒の様子をよくよく観察しながら関わっていくのと同じです。感情を有し、言葉を発する人間でさえ、相手を尊重しながら関わっていくことは容易なことではありません。ましてや、言葉を発して意思表示をしないブドウとあたかも人間と接するように関わっていくには、ブドウにいのちの存在を認め、尊重する姿勢なしには困難を極めることでしょう。これは、道元禅師様がお示しになっている「同事」のみ教えに通じるものです。周囲のいのちと関わっていく上で、こうした接し方を是非、見習っていきたいものです。

それから太田氏は、新規就農者である若手の方々にはブドウ栽培のみならず、経営や営業の勉強も大切だと説いていらっしゃるとのことです。農家は作るだけではなく、どう売るかも大切であるとのことですが、道を歩む上で、自ずと関わる必要性が生じてくる他業種に対しても、自分の好みだけで関わっていては、好悪の別が生じるばかりで、視野は拡がらず、道も開けていきません。「精進はご縁を大切にしてこそ成し遂げられる」ということを、太田氏から学ばせていただいたように思います。

北國風雪賞を受賞する方々は、真摯に道を歩み、世の中に感動と喜びを提供する方々であることを改めて感じます。そこには仏のみ教えが至る所ににじみ出ていることを押さえ、少しでも見習っていきたいものです。