通夜説教A
平成30年12月 故・Y様
Y様は享年91歳。この人間世界に91年というお時間をいただき、その生涯を全うされました。Y様はお寺の近くにお住まいの方で、街中でお会いすることが何度もありました。いつも明るく、笑顔で、楽しそうにお話されるお姿が印象深いです。
Y様と最期にお会いしたのは、お亡くなりになる3カ月前、亡きご主人様の23回忌をお寺でおつとめさせていただいたときです。久しぶりにお会いしたY様は、明るさと元気よさは健在で、とてもうれしく思ったのですが、年齢のためでしょうか、ややものをはっきりおっしゃる印象が強く、いつも以上に緊張感を覚えながら、ご法事をつとめさせていただいたことが思い出されます。
ご法事のお経は「修証義」です。檀信徒の皆様にお経本をお渡しし、一緒に読ませていただきます。お経が始まると、本堂中央の導師位で読経する私の背後からY様の読経の声が聞こえてまいりました。私はビックリいたしました。そのお声は昨日今日、ちょっとお経を読んで練習した方のものではありません。長年にわたりお経を読み続け、身体の節々にまでお経が念じ込まれた方の、まさに「仏道修行なさってきた方のお声」でした。私は全身に感じたことのないしびれを覚えました。これまで幾度もご法事をつとめさせていただきましたが、こんなありがたみを覚えながらのご法事は初めてでした。ご法事を終えて、Y様が「あんたにくようしてもらってよかった」と手を握ってくださいました。感涙極まる瞬間でした。新米住職の背後から聞こえてきたY様の“読経の声”と“最高の誉め言葉”はY様との忘れられない思い出となりました。
その3ヶ月後、Y様は91年の生涯を終え、最愛のご主人がいらっしゃる世界に赴かれようとしています。ご遺族によれば、Y様は「亡きご主人様の23回忌だけは何としても成し遂げたい」とおっしゃっていたそうです。その最期の目的を成し遂げ、“最高の供養”を施されたY様の91年は、まさに生涯に渡って読み続けてこられた「修証義」にも示されている“布施”そのものです。明るい笑顔と和やかな言葉で、周囲に喜びや感動を与え続けてこられたご生涯でした。そんなY様からいただいた最期のお言葉と手のぬくもりを我が身に念じ込み、仏道修行に励んでいきたいものです。
【ここで、戒名のご説明をさせていただきましたが、個人情報保護等の観点から、掲載を省略させていただきます】
|
|