通夜説教B 
令和2年2月 故・H様
 

お父様が亡くなったというご連絡をいただき、ご遺体が安置されている葬祭会館の控室に入った瞬間、私の目に留まったのは、数々の絵画でした。雄大な白山をバックにした黄金の稲田とそこに佇む幼い2人の子ども(H氏のお孫さん)の画、夏の千里浜(ちりはま)海岸(石川県羽咋市(はくいし))などの風景画、それから、見事な桜並木に、鮮やかな色合いのアジサイをはじめとする大自然に生かされている動植物たち。そこは、まるで小さなアトリエのような空間で、一つ一つの作品が写真のような、まるで本当に生きているかのような印象を覚え、大変、感銘を受けたことが思い出されます。

これらの作品は故人様が描かれたもので、「点描画(てんびょうが)」というそうです。これは線ではなく、点を用いて表現する技法だそうです。ご遺族によれば、故人様はとにかく、凝り性で、どんなことにも興味を持ち、積極的に取り組む方だったそうです。「点描画」同様に、ビックリしたのが80歳を過ぎてから「facebook」を活用されていたということです。記事の投稿頻度や内容、SNSを使いこなす技量、何をとっても若い人たちも一目置くほどのものだったそうです。

禅の言葉に「一行三昧(いちぎょうざんまい)」とあります。これは「一つのことに集中し、一生懸命取り組んでいくことで、道が出来上がっていく」ことを説いているのですが、故人様の凝り性なまでのお人柄から、道を完成させていく上で必要となる物事の捉え方、考え方を学ばせていただき、自身の日常生活の中に生かしていけたらと願うところです。どんなことでもいいから、一つのことに果敢にチャレンジし、その道を歩んでいけば、必ずや我が人生の肥やしとなり、わが身に刷り込まれていくのです。そうやって人生の引き出しが出来上がっていくのです。


【ここで、戒名のご説明をさせていただきましたが、個人情報保護等の観点から、掲載を省略させていただきます】

葬儀の後、故人様が描かれた点描画作品の数点をご遺族様からご寄進いただき、お寺の本堂に飾らせていただいております。