第66回「大樹(だいじゅ)衆鳥(しゅちょう)、どう関わる??」


()(しゅ)(ねが)う者は衆悩(しゅのう)を受く、
(たと)えば大樹(だいじゅ)衆鳥之(しゅちょうこれ)に集れば、則ち枯折(こせつ)(うれい)あるが如し。


「遠離」のみ教えをお示しするに当たり、お釈迦様は2つの例え話を用いていらっしゃいます。今回は一つ目のとなる「大樹の衆鳥」に関するお話です。

この例え話は、以前、
「今月の法話」の中でも取り上げさせていただいたことがあります。詳しくは
そちらをご参照いただければと思いますが、常に生きようとして地面に根を張る木々は、強風や刃など、外部から何らかの力を加えない限りは、倒れることはありません。これは人間であれ、動物であれ、いのちを有する者すべてに当てはまる特性なのでしょう。そんな特性を有する大樹(大きな木)を倒すほどの大きな力を持った存在となるのが、衆鳥(鳥の大群)です。衆鳥が大木に宿れば、葉を散らせ、枯枝は折れ、やがては木を倒して、そのいのちを奪うことにもなりかねません。

そんな大樹の衆鳥のごとき存在が私たちの周囲にはたくさん存在しています。たとえば、新型コロナウイルスが蔓延し始めた頃に、世間の人々を混乱させた“トイレットペーパーがなくなるという噂やデマ”がそうです。こうした根拠なき情報が人々に不安を与え、冷静さを失わせてしまうのです。

こうした自分を混乱させる存在に対して、いくらその存在がなくなることを願っても、消え去ることはありません。また、そうした存在を批判し、責め立ててみたところで、自分の苦悩が解消してくわけでもありません。大切なことは、そうした存在との正しい関わり方を身につけていくということです。すなわち、自分を混乱させたり、不安にさせたりするような存在は何かを知った上で、そうした存在に出逢ったときには、静かに距離を取り、自分の冷静さを保持した上で、関わっていけばいいのであり、それが「遠離」ということなのです。そして、日常的に「遠離」のみ教えと共に生きていくことが、人間的な成長となり、お釈迦様へと近づいていくことになるのです。

自分に不安を与え、混乱させてくる存在に対して、私たちは感情的になってしまうことがありますが、そうやって騒いでみたところで、何も解決しません。自分が冷静さを保ち、不安が解消できるような距離感を掴んで、関わっていくことを心がけていきたいものです。