献香三拝

大乗仏教における代表的な経典に「法華経(ほけきょう)」があります。これはお釈迦様のみ教えを、人々が日常生活の中で実践できるよう、様々な喩えを用いながら明快に説き示した経典で、曹洞宗の開祖・道元禅師様も重要視されていました。

その法華経の一節である「法師品(ほっしぼん)」において、「十種供養(じっしゅくよう)」という言葉が登場します。これは花や衣服など、10種類に渡る仏の供養物のことで、その一つに「焼香」が掲げられています。「焼香」については、通夜・葬儀の項でも学ばせていただきましたが、道場をお浄めすべく為される供養で、禅の世界では、仏様は勿論のこと、高僧にお会いする際にも、恭しく香を焚きます。

そうした「焼香」というご供養を献ずるというのが、「献香」です。仏前結婚式では、式師(しきし)様(式を司り、新郎新婦に仏のみ教えに従って夫婦道を歩んでいく心構えを説き示す僧侶)は、開式の合図の鐘が鳴り響く堂内に入ると共に、直ちに仏前に歩み寄り、ご本尊様に相対して、焼香を捧げます。これが式師様による「献香」です。

香を献じた式師様は、その後、後方の「坐褥(ざにく)」に移動し、礼拝を捧げます。坐褥は本堂中央に置かれている厚い座布団で、ここで法要を司る導師様が仏様に礼拝を捧げます。特に三度の礼拝を「三拝」と申します。

「三拝」は「五体投地(ごたいとうち)」の形を取ります。これは「頭及び両手・両足の五体を地面にくっつけて恭しく仏に礼を尽くす」という、仏教における最上の礼法です。

焼香を献ずる「献香」。そして、五体投地の礼拝を為す「三拝」。共に新郎新婦の夫婦道を見守ってくださる仏様に対して最上の敬意を払った仏行です。そうした仏様に対する仏行を修する式師様に合わせ、新郎新婦はもとより、親族やご友人の皆様も司会者の進行に順じつつ、合掌し、三度の礼拝を捧げ、仏様とのご縁を肌身で感じていただければ幸いです。ちなみに、合掌は先の十種供養の一つでもあります。

仏前結婚式への参列は新郎新婦のお祝いの場であると共に、私たちが仏を信仰する日常生活を送っていくための入り口でもあることを、一言申し上げておきます。