第1回 コロナ禍とハンセン病問題 
―感染者に‟寄り添う”―
連日の酷暑に加え、7月の半ば頃から「感染急拡大」という言葉に表れているように、これまでにないコロナの感染者数が連日報告されています。

こうした状況下、ひょっとすると皆様の中に、あるいは、お知り合いの中にコロナに感染したという方が出てきているのではないでしょうか?かく言う私の周囲にも今年に入ったころから、チラホラと感染者をお見受けするようになりました。もはやコロナの感染は他人事ではありません。我が事として捉え、今までと同様に気を緩めることなく、感染症対策に努めていきたいものです。

コロナの経験をなさった方のお話を聞きしながら、2年半たった今も、コロナに感染すれば、本人ももちろんのこと、家族もギリギリまで追いつめられるような状況になることを知りました。追いつめられた人々を救ってくれるのは、周囲の励ましや温かい言葉であったり、感染者に対する深い理解であったりするのではないかという気がします。

そう申し上げながらふと、今から2年半前、当石川県で初めてコロナに感染した方のことが思い出されました。その方とは、直接、面識はございませんが、聞くところによれば、周囲の心無い言葉や無理解によって、住む場所まで変更せざるを得なくなってしまったようなのです。これが事実だとすれば、感染者に対する人権侵害です。コロナに対する理解や経験が深まってきた今ならば、このようななことにはならないと思いますが、この方やご家族がどれだけ辛かっただろうかと思うと、気の毒で気の毒で仕方なくなります。

かつて、私は曹洞宗石川県宗務所の人権擁護推進主事を拝命していた頃、岡山県にある長島愛生園(元ハンセン病患者の方々が生活していらっしゃる施設)を研修でお伺いしたことがございます。ハンセン病は古来から世界各地で確認されている感染症で、「らい菌」が体内に入り、皮膚や末梢神経を侵すことによって、感覚マヒや運動障害が発生、身体に目に見える形で後遺症が残ることがあるという感染症です。そもそも「らい菌」自体は感染力が弱く、劣悪な環境下で感染が起こりやすいこと、また、ハンセン病に対する特効薬も存在するため、現代ではハンセン病は完治する病となっております。また、ここ数年の日本国内におけるハンセン病感染者は年間一人いるかいないかとのデーターも出ており、専門家によれば、「日本国内では感染のピークは過ぎ去った感染症」との認識がなされているとのことです。

ところが、かつてハンセン病に対する特効薬が存在しなかった時代、病気に対する対処法や実態さえもはっきりしていなかった時代、人々の中に、病気に対する無知と感染者の眼に見える形での後遺症に対する恐怖によって、感染者に対する差別行為が生じてしまいました。感染者が出れば隔離し、その方がいた場所、手に触れた者は徹底的に消毒したとのことです。また、ハンセン病が神仏を敬わないものに下される仏罰だという思想がまん延していた時代もあったとのことです。

そうした過去の根拠なき誤った差別思想というものを、現代に生かされている我々は機会があるたびに学習を重ね、二度と同じ過ちを繰り返さないよう、自らの人権意識の向上に努めてきたはずです。

ところが、2年半前に未知なる新型コロナウイルスが登場したとき、かつてのハンセン病と同様に一部の人の中には、無知と恐怖による感染者への人権侵害が引き起こされてしまったのです。古人は「歴史は繰り返す」とおっしゃいましたが、当時、私は我々の人権意識というものは、まだまだ高めていかなければならないと感じたのです。

コロナが登場して以来、デルタやオミクロンといった変異株がどんどん現れると共に、最近では「サル痘」なる新たな感染症も登場しました。まさか、令和の時代に入って、人々が感染症と共に生きていかなければならないことになるとは、一体、誰が想像したことでしょうか。こうした時代の中で、感染症については冷静に情報収集を行い、正確に理解していく他に、対処できる道はないと考えています。正確な理解のためには、自分の目や耳で確かめるといった、自分のフィルターの中に通し、自分で経験していくことが欠かせません。

この先、身の回りで感染者が出てくるかもしれません。そんなとき、根拠なき誤った考え方で感染者を排除するような差別をするのではなく、正しい理解を以て、ときには感染者の苦悩を我が事として受け止めながら、感染者に寄り添うということを心がけていただくよう願っております。   【第2回へ】