第3回 八正道(はっしょうどう) 
―“正しい”が指し示すもの―

あなたは「キャッシュレス」の正しい知識を持っていますか?今ではキャッシュレス化が進み、支払方法が多様化しています。たが、本当にこの世の支払い方法から「現金」という方法がなくなってもいいのでしょうか。

 
現状では、約8割の企業や店がキャッシュレス決済を導入しているそうですが、多くの子供や高齢者はスマホなどを持っていないと思います。それに子供はお金の大切さを知らず、使いすぎてしまうでしょう。

 
中には「キャッシュレス化で盗難にあわず、ポイントが付いて便利だ」という声があるでしょう。だが、もし完全にキャッシュレスの時代になり、大災害が起きた場合、電気が使えなくなり、スマホの充電が切れたり、支払をする機械が動かなくなると何も買えないのではないでしょうか。

 
誰一人として取り残さないためにも、ほどほどのキャッシュレス化にするべきです。【令和4年7月24日北國新聞朝刊 地鳴りより 原文ママ】



「誰一人として取り残されないためにも、ほどほどのキャッシュレスにすべきです」―この“ほどほど”というのを、“偏らない”と言い換えることができるでしょう。この女子中学生が指摘するように、支払ということについて、キャッシュレスに一本化(偏ってしまうこと)すると、支払ができなくて困る人が出てくる可能性は十分に考えられます。ここに仏教の思想を当てはめてみるならば、そもそも仏教は誰一人として取り残すことなく、差別なく、皆が救われることを願って示されたみ教えです。これらを考え合わせると、キャッシュレス化による支払いができなくて困る人は、救われなかった人ということになります。

 ここから言えることは、一点に捉われ、偏ってしまうことは、救われない人を生み出してしまうということです。ということは、一点に偏らないような言動が求められるわけで、それが「八正道」における「正」であると解釈することができるのです。

「正しい=偏らない」という観点から八正道を見ていきます。

(1)正見(しょうけん) 偏らない物事の見方・捉え方をしていくこと。
これが道元禅師様がおっしゃる「聞くべし、見るべし」なのです。すなわち、偏らない聞き方や見方を心がけていこうということです。
(2)正語(しょうご) 偏らない言葉を発していくこと。
(3)正業(しょうごう)偏らない行いをしていくこと。
(4)正命(しょうみょう)偏らない生き方に徹すること。
(5)正精進(しょうしょうじん)自分の好みを捨てて、どんなことに対しても、努力していくこと。
(6)正定(しょうじょう)常に心を穏やかに調えておくこと。
(7)正思惟(しょうしゆい)偏らない考え方をすること。
(8)正念(しょうねん)偏らない記憶。常に仏のみ教えを心がけながら行動していくこと。

こうした偏らない言動というものを、我々一人一人が意識していくことによって、「誰一人として取り残されない社会」が実現していくと考えています。

ちなみに、この「誰一人として取り残されない」というフレーズは、近年、耳にすることが多くなってきました。2015年に国連総会で193の全加盟国によって承認された「SDGs(エスディージーズ「持続可能な開発目標」)」の中心思想となるフレーズです。次回は「SDGs」について、仏教との関係性にも注目しながら、考えていきたいと思います。 【第4回へ】