第3回 同事といふは
同事に生きた名優を偲んで

「同事といふは不違(ふい)なり。自にも不違なり、他にも不違なり。」(正法眼蔵(しょうぼうげんぞう)菩提薩埵四摂法(ぼだいさったししょうぼう)より)

道元禅師様が次のようなことをおっしゃっています。
「海は水を辞せず、故に能(よ)く其(そ)の大(たい)を成す。山は土を辞せず、故に能く其の高きを成す。明主(みょうしゅ)は人を厭はず、故に能く其の衆を成す。」

広い海は方々の川から流れてくるきれいな水も汚い水も関係なく、どんな水でも受け入れるから海となるのです。高い山はどんな土も受け入れるから高い山となるのです。そして、名君主と呼ばれる方はどんな人でも認め、受け容れるから大勢の人に慕われ、国を治めることができるのです。こうした海のごとく、山ごとく、名君主のごとく、相手を厭うことなく、誰でも認め、仲良くしていこう、相手と同(ひとつ)になっていこうというのが「同事」なのです。

令和4年11月28日に敗血症にて61歳の若さで急逝された“七曲署のラガー刑事”こと俳優・渡辺徹さんの訃報は世間に大きな衝撃を与えました。大食漢ゆえに大柄で、ときには、その身体的特徴に対して、周囲の心ない言葉をいただくこともありましたが、徹さんは、そんな言葉も明るい笑顔で受け容れながら、61年間を人生を生きてきました。12月5日に家族葬にて見送られた後、愛妻である女優・榊原郁恵さんと長男で俳優の渡辺裕太さんが記者会見を開かれました。その中で郁恵さんは『世間がサッカーのワールドカップで盛り上がる中、渡辺徹のことで皆が集まっていただいたことに感謝している。そして、渡辺徹のことを話題にしていただいたことが家族としてうれしく、「渡辺徹は偉大であった」と思える』とのコメントを発せられました。まさに故・渡辺徹さんは海のごとく、山のごとく、名君主のごとく、同事のみ教えに生きた名優であったことを思わずにはいられません。ここに渡辺徹さんの訃報に接し、謹んでお悔やみ申し上げます。
【終わり】