第4回 露命であるということ ―無常の風が吹き荒れる中で―
最勝の善身(ぜんしん)(いたづ)らにして露命(ろめい)無常(むじょう)の風に任すること(なか)
「露命」ということについて、少し考えてみたいと思います。

令和4年(2022年)を振り返ってみると、実に多くの著名人が鬼籍に入られた一年でした。安倍晋三元内閣総理大臣に俳優の古谷一行氏やあき竹城氏、タレントの仲本工事氏に上島竜兵氏(ダチョウ俱楽部)、色々な方のお顔が思い出されます。

そうした中で、幾度も大病を患いながらも、つい最近までお元気なお姿をお見かけしていた俳優・渡辺徹氏の突然の訃報にも驚きました。徹さんというと、俳優としてのデビュー作となったテレビドラマ・「太陽にほえろ!」の“ラガー刑事”を思い出される方も大勢いらっしゃるかと思います。徹さんはドラマの舞台となる「七曲署(ななまがりしょ)」に4年間勤務。この間に若い女性のファン(一説には徹さんが住むアパートの最寄りの駅からアパートまでファンの女性で埋め尽くされるほどの人気ぶりだったとのこと)からいただいた差し入れを「残しては申し訳ない」とおっしゃって、全ていただいたところ、体重が100キロを超える体形になってしまったというエピソードもあるそうです。

「太陽にほえろ!」と言えば、全く無名の新人俳優さんが新人刑事として成長を重ねながら、最期には凶悪犯と果敢に闘い、いのちを落としてしまう“殉職”シーンが有名です。今は亡き萩原健一さん(享年68歳)や松田優作さん(享年40歳)を始めとする俳優さんたちの名演は、今も語り継がれています。こうした中で、徹さんはビルの屋上からバスジャックされた観光バスの中の人質を狙う狙撃犯と相撃ちになり、大量に出血しながら、無念の死を遂げるという殉職を演じられましたが、撃たれて倒れる際に、ズボンの臀部が裂けるなどといったアクシデントが発生し、ご本人始め、周囲の人々を笑わせてしまったために、どちらかといえば、伝説の迷シーン的な見方で語り継がれているような感があるようです。

しかしながら、徹さん演ずる“ラガー刑事”の最期を描いた45分間のストーリーは、人間の「露命」というものを見事に描き切った名編です。以下にそのストーリーを簡単に紹介させていただきます。

【ストーリー】
―ある夏の暑い日の朝―
ラガー刑事はいつものように七曲署に出勤すべく、自室のアパートを出て、ネクタイを締めながら階段を下りていくと、年頃は60代、背中には孫と思われる赤ん坊を背負った近所の女性と出会い、朝の挨拶を交わし、しばし会話をします。
女性「あんたいつも元気やねぇ。」
ラガー刑事「もうそれしか取り柄がなくて。」
ラガー刑事は照れ笑いをしながら、女性の背にいる赤ん坊に「いないいないばあ」をし七曲署に出勤します。
ドラマはいつもと何の変りもない朝の一コマと思われる場面から始まります。

―七曲署に出勤したラガー刑事は後輩のマイコン刑事(演:石原良純氏)と覆面パトカーに乗って管内のパトロールに出動―
すると、故・石原裕次郎氏演ずるボスから、バスジャック事件発生の無線連絡が入り、ラガー刑事は捜査を開始します。その結果、ジャックされたバスの中にいる人質を狙う狙撃犯がいることが判明。地図を拡げ。狙撃地点のビルに当たりをつけたラガー刑事は単身、ビルに向かうものの、そこで2人の狙撃犯と相撃ちになります。ラガー刑事のおかげでバスは狙撃を免れ、仲間の刑事たちがバスジャック犯を逮捕することができたものの、ラガー刑事からの連絡がないことを不審に思い、一帯を捜索した結果、変わり果てたラガー刑事と対面することになるのです。

―その日の夕刊には一人の若い刑事が亡くなったことを告げる小さな記事が掲載されていた―
これでドラマは終わります。


このお話、ドラマの世界だけのことでしょうか―?決して、そうではありません。現実の世界において、私たち誰にでも起こり得ることなのです。朝、普段と何ら変わりなく「行ってきます!」と元気に出かけていったはずの人が、何らかの出来事(自然災害、交通事故、急病など)によって、死を迎え、夜には「ただいま!」と元気に帰って来ないということ―これが「露命」ということなのです。

「露命」を生かされている私たちの周りには無常の風が吹き荒れていて、まさにいつ、どうなるかわからないわけですが、そんな私たちがどうやって毎日を過ごしていけばいいか?次回、「三法印(さんぼういん)」のみ教えに出値(であ)うことによって、考えていきたいと思います。【第5回へ】