第13回「十重禁戒(じゅうじゅうきんかい)-私たち一人一人の取り組みによって-

次には(まさ)十重禁戒(じゅうじゅうきんかい)を受け奉るべし。
第一不殺生戒
(だいいちふせっしょうかい)
第二不偸盗戒(だいにふちゅうとうかい)第三不貪淫戒(だいさんふとんいんかい)第四不妄語戒(だいしふもうごかい)
第五不酤酒戒(だいごふこしゅかい)第六不説過戒(だいろくふせっかかい)第七不自讃毀佗戒(だいしちふじさんきたかい)第八不慳法財戒(だいはちふけんほうざいかい)
第九不瞋恚戒
(だいくふしんにかい)
第十不謗三宝戒(だいじゅふぼうさんぼうかい)、是れなり。

仏戒が指し示す善悪というのは、仏の基準から外れた言動を「悪」とし、仏の基準に沿ったものを「善」とします。悪を断ち(摂律儀戒(しょうりつぎかい))、「善」を修し(摂善法戒(しょうぜんぼうかい))、周囲の存在に気を配った言動を提示していく(摂衆生戒(しょうしゅじょうかい))という「三聚浄戒(さんじゅじょうかい)」を、より具体的に、我々の日常生活における様々な場面を想定しながら、10通りの提示の仕方をしたものが、「十重禁戒(じゅうじゅうきんかい)」です。「三帰戒(さんきかい)」・「三聚浄戒」・「十重禁戒」で「十六条戒(じゅうろくじょうかい)」と呼ばれます。葬儀では故人様が導師によって、戒のみ教えを自らの生き方に反映させていくことが願われます。それは決して、導師によって強制されるものではありません。導師は道を提示する案内役であり、それに従うかどうかは、あくまで相手次第です。“自らの意思で決定する”ことが、「戒」を捉えていく上で、重要なポイントなのです。

「十重禁戒」についても、これまで「修証義第3章・受戒入位」及び「教授戒文」でも触れてまいりましたので、ここでは簡単に、下記の一覧表を参照しながら、確認するだけにとどめておきたいと思います。今一度、自らの日常に反映させていく機縁になることを願います。

不殺生戒 ふせっしょうかい 周囲のあらゆるいのちを殺さずに生かすこと。仏の慧命(えみょう)嗣続(しぞく)すること。
どんな存在も大切に関わり、自分の視点のみで差別的な関わりをしない。
不偸盗戒 ふちゅうとうかい 他者のモノに手を出さない。どんなモノも自分と一体化させて、丁寧に扱う。
不貪淫戒 ふとんいんかい 貪らない。必要以上に求めない。
不妄語戒 ふもうごかい 真実の言葉・仏の言葉を心がけて会話を行う。
不酤酒戒 ふこしゅかい 憍慢(きょうまん)(おごり高ぶりの感情)に留意する。自分も酔わない、周囲も酔わせない。
不説過戒 ふせっかかい 相手の過失を責めない。相手に恐怖や不安を与えるような言動を慎む。
不自讃毀佗戒 ふじさんきたかい 周囲と我が身を一体化させ、自慢や相手への批判を慎むように留意する。
不慳法財戒 ふけんほうざいかい 物惜しみすることなく、相手が苦悩から救われ、仏のお悟りに近づけるようなものを提示していくこと。
不瞋恚戒 ふしんにかい 怒りを始めとする周囲に不安などをもたらすような言動に留意し、自分の感情を調整していくこと。
不謗三宝戒 ふぼうさんぼうかい 自らの意思で仏法僧の三宝に帰依すること。

故人様のみならず、我々遺族も故人様との別れを通じて、こうした「十重禁戒」のみ教えに触れながら、自分のできる範囲内から我が身心を調えることを意識し、少しでも仏の生き様に近づくことを願って、継続的に取り組んでいきたいものです。

曹洞宗では2015年に国連サミットで採択された「SDGs」(持続可能な開発目標)が掲げる17の目標と仏教のみ教えが説くものが同じであるとの認識から、その推進を訴えています。我々一人一人の日常的な実践が積み重なって、世界的視野での争いや差別の問題の解消、平和の実現に向けての動きが実現していくような気がします。曹洞宗の取り組みも踏まえながら、「持続可能」という言葉を重視し、できる範囲で確実に継続することを念頭に置きながら、仏道を歩んでいきたいものです。