第16回 「坐禅の条件 その4 手の組み方」


次に右の手を左の足の上に(あん)じ、

左の(たなごころ)を右の(たなごころ)の上に(あん)じ、

両の大拇指面(おおぼしむか)いて相拄(あいささ)



今回は坐禅中における「手の組み方」を学習していきます。前回同様、写真を用いながら解説させていただきます。


まず、「次に右の手を左の足の上に安じ
とあります。結跏趺坐(けっかふざ)もしくは半跏趺坐(はんかふざ)で足を組んだ上に、左記の写真1のように、まずは右の掌を上に向けて、静かに足の上に安置します。

次に「左の掌を右の掌の上に安じ」とあります。先の右手の上に左手を掌を上にして重ねるということですが、厳密に言えば、写真2のように右手の指の上に、左手の指が重なるような形になります。

右の掌を上に向けて
(写真1)

そして、「両の大拇指面(おおぼしむか)いて相拄(あいささ)う」ということですが、「拇」とは「親指」のことです。両手の指同士を重ねると、両方の親指が手持ち無沙汰のようになってしまいます。そこで、両親指を向かい合わせにして、くっつけます。軽く合わせる程度で構いません。
                         
すると、写真3のような円い形(円相(えんそう))が出来上がります。この円相(坐禅中の手の置き方)を「法界定印(ほっかいじょういん)」と申しております。法界定印とは坐禅修行中の標印ということなのですが、以前、あるご老師が「道元禅師様も瑩山(けいざん)禅師様も法界定印という言葉を使っていない」とおっしゃっていたことをお聞きしたことがあります。確かにその通りなのですが、恐らくは、手の組み方を指し示す言葉として、いつの頃からか定着していったものではないかと考えられます。「「法界(ほっかい)」とは、「すべての世界」を意味しています。そして、「定印(じょういん)」とは、坐禅中の手で形作る“円相”のことです。


両指同士を重ねて
(写真2)
“円相”が現すものは、この世の「すべての存在」です。お釈迦様は坐禅を通じて、自分とこの世に存在するあらゆるいのちは、円のように途切れずに、常につながっているということにお気づきになりました。35歳の12月8日の明け方です。それが「成道(じょうどう)」、お釈迦様のお悟りです。私たちは決して、一人で生かされているのではありません。自分とは異種の様々ないのちと関わり合い、支え合い、助け合って、生かされているというのが、この世の真実の姿です。

法界定印というのは、そうしたつながりを実感すると共に、この世の道理や真実を体感できる手の組み方なのです。

法界定印(ほっかいじょういん)
(写真3)