第17回 「坐禅の条件 その5 坐禅中の姿勢」


(すなわ)正身端坐(しょうしんたんざ)して

左に(そばだ)ち右に傾き

前に(くぐま)まり(しりえ)(あお)ぐことを()ざれ

耳と肩と対し、鼻と(ほぞ)と対せしめんことを(よう)


坐禅中の姿勢について、道元禅師様は「正身端坐(しょうしんたんざ)」であるとお示しになっていらっしゃいます。それは一体、どういう姿勢なのかというのが今回の内容です。

道元禅師様は正身端座について、「左に(そばだ)ち右に傾き、前に(くぐま)まり(しりえ)に仰ぐことを得ざれ」とお示しになっています。これは身体をまっすぐにして、前後左右に揺れ動かさないということです。

こうした姿勢は坐禅に限らず、たとえば冠婚葬祭の場であるとか、学校の入学式や卒業式、会社の入社式等の場面にも当てはまります。先日、中学校に進学した長女の入学式に行ったところ、終始、足を組んで、喋り続けているお父さんがいました。大切なお子さんの晴れ舞台に対する意識が低いように感じ、残念な気持ちになりました。何事もしっかりとした心構えで臨めば、自ずと姿勢も整っていくように思います。

とは言え、坐禅の場に目を向けると、正身端坐を維持する難しさを感じます。「結跏趺坐(けっかふざ)」もしくは「半跏趺坐(はんかふざ)」といった非日常的な姿勢で坐るのですから、確かに至難の業です。しかし、どんな至難の業でも、それを成し遂げるかどうかは、コツ(方法)を心得ているかどうかに関わっています。重い米俵を担げるのも力だけではなく、担ぎ方を心得ているからだというお話を聞いたことがあります。

ということで、「正身端坐」にもコツがあるはずです。それが、です。実際に坐蒲(ざふ)の上に坐ってみるとわかりますが、坐蒲の高さ(坐蒲屋さんのHPを見ると、だいたい15p程度)のために両膝が浮き上がります。膝が浮いていると、身体を支えることができません。とても「正身端坐」などできず、身体が前後左右に揺れてしまいます。

そこで、身体を支えるために、両膝を坐蒲の下に敷いてある座布団(座蒲団がないときは畳の上)にしっかりとつける必要性に迫られます。右の写真のように、両膝を地面につけることで、ちょうどカメラの三脚のように、地面上の膝と坐蒲上にあるお尻の三点で身体を支えることになります。両膝を地面につけるためには、坐蒲の中央に背骨が来るようにしなければなりません。すなわち、坐蒲に坐るときは、浅めに坐る必要があるということです。これで身体が安定してきます。

次に必要になってくるのが、背筋です。よく言われるのが、「頭の先で天を突くように」ということです。なるほど、やってみると、自然と背筋が伸びます。こうして「正身端坐」が成立するのです。

「正身端坐」のポイントは下記の3点です。
@
両膝を地面(座蒲団もしくは畳の上)につけ、両膝・お尻の三点で身体を支える
A
坐蒲に浅く坐る(坐蒲の中央に背骨が来るように坐る)
B
頭で天を突くようにする(背筋が伸びる)

このとき、自分の耳と肩は横一直線上に並ぶ2点の座標のようになっているというのです。また、鼻と臍(おへそ)は縦一直線に並んでいるというのです。「調身」という姿勢を正すことは、まさにこうした状態を指します。そうした調身によって、我々の心も「調心」、穏やかで安らかな状態へと調っていくのです。