「“トンネルを掘る”ということ」

(たと)い、天上(てんじょう)人間(にんげん)地獄(じごく)()(ちく)なりと(いえど)も、

感応道交すれば、必ず帰依し奉るなり


前回、我々が仏法僧の三宝と“砂場のトンネル掘り”のごとく心を通じ合わせれば、三宝の功徳をいただくことができるというお話をさせていただきました。これは人間同士のよき関係作りにも通じるみ教えです。

しかし、スムーズにトンネルを掘れればいいのですが、ほとんどの場合、そんなに簡単には掘れません。たとえば、最初はうまく掘れていたのに、途中に硬い岩があって掘れなくなったとか、山火事でトンネルを掘るどころではなくなったとか、様々な状況が起こります。

そうしたトンネルに起こる様々な状況を表現したのが「天上・人間・地獄・鬼・畜」です。これはいわゆる「六道」でありますが、詳しくは第2章の第2回「差別なき救いの門」をご参照いただけたらと思います。それら6つの世界は決して、我々と無関係ではありません。我々の住む娑婆世界(人間世界)のどこかで、必ず巡り合うものばかりです。愛や名誉、お金など、沸き起こる欲望に飢えた者同士の関係(餓鬼)、何かにつけて文句を言い、愚痴ばかりこぼし合っている者同士の関係(畜)などなど・・・。身に覚えがあるものばかりです。

そうした一見、トンネルが掘れない、お互いの意志が通じ合いそうもないと思えるような山であっても、道元禅師様は「諦めてはいけない」とおっしゃいます。道元禅師様は我々に、たとえ、どんなに困難なトンネル掘りであったとしても、「必ず掘れる」と信じて、コツコツと掘ってほしいと願うのです。それは、たとえ相手がどんなに難しい人であったとしても「いつか必ず気持ちが通じ合えるはずだ」という信念を持って関わっていくということです。こちらが諦めずに相手と気持ちを通じ合わせようと働きかければ、いつか必ず相手が応えてくれるときが訪れるということです。こちらから「感応道交」させていくということです。そうすることで、どんなに関係作りが難しそうな相手でも、仏様に帰依する仏教信者のごとく、必ずお互いに相手を敬い合える関係になれると道元禅師様はおっしゃっているのです。